第226回
「実は…。今日、急いで来たのには、もうひとつ大きな理由があるんです」
沼澤氏の含みのある言葉に、私はすぐ訊ねていた。
「皆さんにお出会いするのも、実は今夜が最後なのですよ、残念ですが…」
「ええっ?! それはどういうことですか?」
私ばかりか、ママも早希ちゃんも驚きの眼差しで一瞬、沼澤氏を注視した。
「私ね…消えるんです」
「消えるって? …どこかへ行かれるんですか?」
「いいえ、そうじゃなく、消えるんです。煙のように、あとかたもなく…」
「んっ? いや、云っておられる意味がよく分かりません。どういうことでしょう?」
「ですから、消え去るんです。雪が解け、氷がなくなり蒸発するように、です」
「ははは…ご冗談を。生身の人間が、そんな馬鹿な。…えっ? それは本当ですか?」
「はい、本当です。玉のお告げが今、あったのです。ここへ来る前、玉がみかんで答えるから急ぐようにと告げたのです。久しぶりのお告げでしたから私も嬉しかったのですが…。私の身の振り方を玉から考えておくと以前、云われていたのですが、その答えを今夜すると…」
「ますます云っておられることが分からなくなりましたよ、沼澤さん。もう少し順序立てて説明して下さいよ」
いつの間にかボックス席から早希ちゃんも戻り、ママと二人で私と沼澤氏の話に耳を欹てていた。