第221回
沼澤氏が息を切らせて店のドアを開けたのは、それから二十分も経っていなかった。
「どうされたんです? 沼澤さん。そんなにお急ぎになって…。何かあったんですか?」
「いええ…。そういう訳じゃないんですが…どうしたことか…心が急きましてねえ」
ママが水コップを慌てて準備し、カウンターへ置いた。沼澤氏はそれを一気に飲み干して、フゥーっと溜息をひとつ吐いた。みかんの二人と私は、ただ黙って沼澤氏の行動を見続けるのだった。沼澤氏はようやく落ちついたのか、私の右隣の椅子へ腰を下ろした。
「それがですね。今、思えばなんとも不思議で、なぜ急ぐ必要があったのかが分からないのですよ」
早希ちゃんは、沼澤氏が話しだしたのを見て、いつものようにボックス席へ緊急避難した。
「いつもと同じので、よろしいんですね?」
「はあ、頼みます…」
ママはマティーニを作り始めた。
「それにしても、久しぶりですな。テレビでは、よくお目にかかっとるんですが…」
「ははは…、お見苦しいところを…」
「塩山さんが大臣になられるとは、私もいささか驚いておったのですよ」
「これはこれは…。沼澤さんまで驚かせてしまいましたか。玉との交信で当然、早くから知っておられると思ってましたが…」
「いや、それが…。テレビで知ったようなことでして…。お告げがどういう訳か、なかったのです」
霊術師である沼澤氏の言葉は意外だった。