21/317
第21回
「なに云ってんのよ。そんな訳ないじゃん」
「何故さ?」
「だってその男、いえ、その人、ちゃんと名刺渡して、これこれに住まい致す者で、決して怪しげな商売人じゃござません、って念押したんだから…」
「いやいやいや、それだって危ない危ない。現に、そういう手口で信用させておいて、って事例も、かなりあるんだから・…」
「そうかしら…」
早希ちゃんは不満げで、得心出来ないようだった。
「それで、ここに飾ってあるんだけど、話には、まだ続きがあんのよぉ~」
ここでふたたび、ママの出番となった。
「と云うのもね。私が棚から動かしちゃ駄目なんですか? って訊いたのよ。そしたらさあ、何ていったと思う?」
「さあ?」
私は首を捻った。
「いや、絶対に駄目です。霊気が乱れます。乱れるとは即ち、舞い込んだ幸運が放出され、遠退くことを意味します、ってね」
「だから、そこですか…」
「ええ…。今、早希ちゃんが掃除してたでしょ? ほら!」
ママが背の酒棚を指さしたので、私は目線を水晶玉に集中させた。