第207回
「それ以上は小菅さんの専権事項だから俺にも分からんが、たぶん呼び込みが始まれば電話がある筈だ。あれば官邸へ出向けばいいんだが、待機してなきゃ駄目だぜ」
「はい! まあ、私にもその辺は大よそ、分かってるつもりですから…」
「だとは思うが、念のためにな…」
煮付先輩は、こと細かにアドバイスしてくれた。
「で、先輩のポストは?」
「んっ? 俺か? 俺は留任だそうだ。総理から内示めいた言葉は、戴いている」
「そうなんですか…。でしたら、先輩とともに内閣の一員って訳ですよね?」
「ああ、まあそういうことだな…」
そして、そうなった。二日後の朝、ようやく先輩の世話してくれたマンションで落ち着き始めた頃、突然、電話が入った。すでに呼び込みを伝えるテレビの映像が流れていたから、私は先輩に云われたとおり、電話機の前で、じっと待機していた。あっ!
テレビや電話機は? と疑問を抱かれる方もおられると思うが、これが先輩の世話してくれた…の下りである。先輩は私が入室した部屋に、すでに、あらゆる電化製品、生活備品の一切を調達しておいてくれたのだった。やはり、先輩は私が尊敬する辣腕家で、さすがは国政の要を小菅首相に任された大した人物だ…と思わせた。先輩が云っていた着のみ着のままでとは、まさにその言葉どおりだった。