第204回
「これは、棚の玉と交信しておるのですよ。まあ早い話、人間で云うところの会話ですな」
「あのう…、なにを?」
「そこまでは私にも分からんのですが、今までの集積データの送信という奴かも知れんですな。私とあなたの今までの情況を、ですぞ」
「そんな…。見張り番のようなことをされちゃあ、おちおち何も出来んじゃないですか。SPじゃあるまいし…」
「ははは…、SPてすか。上手いこと云われますな。まあ、そんなことも、ないようなあるような…」
肯定するでも否定するでもない云い回しで沼澤氏は暈して云い、小玉をポケットへ入れた。私も、そうした。
「満ちゃん、おかわり、どう?」
ママが二人の会話を邪魔しないよう、小声で云った。
「えっ? ああ…、頼みます」
私は、ほぼ空になったグラスをママの方へ突き出し、三切れほどになったアスパラガスのベーコン巻きを、ひと切れ頬張った。沼澤氏は、いつの間に出されたのか分からないマティーニを、チビリとやった。そして、コップの水で軽く口を漱いだ。なんでも、マティーニの風味をじっくり味わうためらしかった。
私達はその後、適当に飲んで支払いを割り勘にした。これも沼澤氏によれば、長くいい付き合いを続ける秘訣ということだった。