第20回
「それはいいんだけど、その紳士のことと水晶玉を棚に置いてる訳が今一、分からないんだけど」
「そうそう、話が余計なところへ行っちゃったわ、あら、嫌だ」
ママは美しい笑顔を見せた。今日は剃り残しの顎毛もないから、男だと知らなければ、それはそれなりに色気を感じるお方もいるのだろう。だが、私は知っている。それが具合悪いし、今風の若者言葉で云えばキモイし、キショイ。
「で、その人が鞄から水晶玉を取り出した訳…。ここまでは、この前と同じだったのよ。違うのは、そこから!」
「そうなの。その男さ、紫の布切れを開いて玉を取り出すとね、それをカウンターへ置いて、じっと玉を覗き込むの」
「悪いけど、そこもこの前、聞いたんだけど…」
ママからバトンを受け、今度は早希ちゃんが説明を始めたが、私は気づいたまま駄目出しで突っ込んだ。
「そうだった? でね、何を云うんだろうと思ったわよ。そしたらさあ」
「この店に近々、幸運が舞い込みます、とか」
「そうじゃないのよ。云うことが何かキモくってさあ」
「何、云ったの?」
私は身を乗り出した。
「この店に、もう幸運は舞い込んでいます。それがこの水晶玉です。これをそこの酒棚に置けば、あら不思議、店はたちまち大繁盛、疑いなし! ってね」
「それって、霊感商法? そんなの、けっこういるぜ」
私は注意を喚起すべく、釘を刺した。