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第2回
そういや、窓から差し込む夕日はすでになく、静寂に混ざる薄闇が辺りを支配しているではないか。要は、とっぷりと暮れた陰鬱な課内に一人いて、しかも陰気に何をするでもなくポカンとしていた訳だ。時研で村越さんや悟君と活動していた頃は、確かに多忙で居眠りなどをして上司に注意されたりはしたが、仕事はアグレッシブに熟していた。それが今は、何か身体に穴が開いたような空虚感に苛まれている。
「…あっ! 禿山さんでしたか。もう帰りますから…。どうも、すみません」
「いいえ、私も仕事ですから見回っとるだけで、別に急がれなくても…」
「いやあ、どうも。ははは…最近、どういう訳か、よく考えごとをしてしまいまして…」
「いろいろお有りで、お疲れなんでしょう。それじゃ…」
禿山さんは、それ以上のことは語らず、制帽に軽く手をかけるとお辞儀してドアを閉じた。彼の気配が消え、私も机の施錠をすると席を立った。黒茶の手提げ鞄が、この日に限って妙に重く煩わしかった。
車を運転しての帰宅途中、急に繁華街へ出たくなった私は、ハンドルを街へと切った。