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第190回
「まあ、お座りになってください。今、お茶を淹れますから…」
「あっ! もう、お構いなく…」
私は紋切型の挨拶をしていた。実は、急いで来たせいで喉が乾き、こちらからお茶を一杯…と云いたかったのだ。思っていても一応は建て前で断る日本独特の云い回しである。
私は椅子に座り、禿山さんは急須に茶葉を摘み入れた。
「あの…玉の一件ですかな?」
「はい…。あれからいろいろと起こりましてね」
「そうそう、部長へのご就任とかありましたな。おめでとう存じます。社内ですから、分かっとったんですが…」
「あっ? ああ…どうも有難うございます。まあ、それもあるんですが…」
「えっ! まだ何ぞありましたか?」
「話が長くなりますので短めに云いますと、私、どうも大臣になりそうなんです」
「… … ? えっ?」
「いや、ですから、大臣です」
「大臣と云いますと、あの大臣ですかな?」
「ええ、たぶん、その大臣だと思いますが…」
「国のですな?」
「はい、内閣の大臣です」
「エエッ!!」
禿山さんは急須を手にしたまま、凍結してしまった。