第173回
「上手いこと云うなあ、早希ちゃんは」
やんわりと私は返した。
「あまり気にされない方がいいですよ。こんなのは、ほんのプロローグに過ぎないのですから…」
「…と、いいますと?」
「ええ、そのことなんですがね。今後、もっと大きなことが起こるでしょう。このことは以前にも云いましたが、私が予想して云ってる訳じゃなく、玉のお告げなんですよ」
「そんなことを云われれば余計、気になりますよ、沼澤さん」
「おお、これは迂闊でした、私としたことが…。しかし、起こることはほとんどがよい話ですから、ご安心を」
「まあね、そう云って戴けると、私も…」
事実、この時の私は、沼澤氏に慰められ、気にするという心は失せていた。
ママがシェーカーからワイングラスへ注ぎ入れたマティ-ニを、沼澤氏は美味そうにひと口やった。私の方も早希ちゃんが作ったダブルの水割りをチビリとひと口、喉に流し入れた。
「なんか、面白くなってきたわ…」
ママがポツリと口を挟んだ。興味本位で云われちゃ困るな…と、私は思った。
「それより、お店の方は変わったこととか、ありませんか?」
沼澤氏が唐突にママへ問いかけた。