第16回
その日は事もなげに一日が過ぎ、少し身体がかったるかったので、昨日とは真逆に、すんなりと退社し、寄り道はせず家へ帰った。出入口で警備員の禿山さんとは違う別の交替要員がいたが、最近になって赴任されたので、もうひとつ人となりを知らず、軽く礼をして退社するに留めている。家へ帰ると、中は空虚で満たされ、住まう者が私一人のせいか、どことなく陰鬱に沈んでいる。その閉塞感に耐えきれず、私は直ちに窓という窓を開け放った。たちまち、秋の涼風が流れ、快くとはいかない迄も、家の中を開放していく。吸う息も少し冷んやりと新鮮に感じられる。さて、人心地つくと、急に腹が空いてきた。幸いにも冷凍しておいたカレーの残りがあったので解凍し、サラダを余った野菜で簡略に作り、夕飯を済ませた。
次の日の夕方、仕事を終えた私は、みかんへ寄ってみることにした。隔日の今日だから、まだ男は現れていないに違いないが…とは思えたが、気が急いたので寄ってみることにしたのだ。社の出入口では、知己の禿山さんが警備室の中に見えた。例の仏様のような丸禿頭を照からせ、俯き加減だから余計に眩い。私が通過しようとすると俄かに顔を上げ、ニコッとした笑顔で軽く頭を下げられた。当然、私も笑顔で軽い返礼をし、社員通用門を出た。