第155回
しばらくお告げがなかったこともあり、私は余り玉のことを気にせず仕事を熟せた。そのお蔭で、葉桜になるまでには、どうにか最低ラインの概要を掴むことができた。私が担当する営業部は、課だけでも四課を抱えるのだ。第二課は別として、一、三、四課はまったくの未体験ゾーンだった。だから猛勉強、となった訳だが、ようやく部の全容を掌握し、ふと、玉のことを思い出した時は、なぜか今の立場が無性に恨めしく思えた。二段階も昇進できたのは、非常に珍しく稀有なことで有難かったのだが、その結果、多忙になったこと自体は、必ずしも昇進がラッキーだったとは云い難かった。二課長時代に起きた、接待キャンセルはまだしも、多毛本舗の新製品、団子っ娘に端を発した俄か景気による多忙さにしたってそうだった。いつか禿山さんが云った、『…疲れる割には幸運ってのが、小ぶりに思えるんですがなあ…』という声が頭に甦ったのもこの時だった。そうこうして、ようやく最後の資料に目を通し終え、私はやっと部長席へ座った。椅子はさすがに変えてもらったが、数ヶ月前まで故鳥殻部長が座っていた場所であることは厳然とした事実だった。それを思うと、ゆったりした座り心地が必ずしもいいとは云えなかった。そんな時、久々にお告げがあった。