第15回
「そうなんですよ、少し寒過ぎます。みかんって店なんですけどね、その店は…。まだ熟れてない話です」
「おっ! 上手いこと云いますなあ。みかんだけに、熟れてないと…」
別に洒落で云った積もりはなかったのたが、禿山さんは私が洒落たと思ったのだろう。残った茶を飲み干し、私は椅子を立った。
「この次、店に行った折りには何らかの進展があると思いますので、また機会がありましたら お話しします。それじゃ…」
「はい、孰れまた…」
そう云いながら私のあとを追って席を立った禿山さんは鍵を開け、ロックを外した。そして私がドアを開けると、外まで出てくれた。
「楽しみにしとります」
禿山さんの言葉を背に受けながら、私は課へと向かった。辺りは閑散としていて、まだ人っ子ひとりいない。歩きながら、禿山さんも寂しい人生を送っておられるんだ…と、勝手に解釈して憐れんでいる。よーく考えれば、四十半ば過ぎで一人暮らしを続ける私の方が、ずっと哀れなのかも知れない。人を憐れんでいる場合じゃない…と思ったが、その時また、みかんの一件が脳裡を過った。これは遅かれ早かれ、きっちり話を終わらせなきゃいかんな…と私は思った。