第148回
お告げの声質は私の意志の声なのだから当然、私の声である。それも、頭の中で聞こえるだけだから、或る意味、心の中で漫才のAとBの両方を一人で演じているようなものだった。こんな話は、とても人様の前で語れたものではない…と私は思えた。
小玉を再々度、ポケットへ戻し、私は車外へ出た。せっかくA・N・Lへ寄ったのだから、少し早いが夕食を…と思ったのだ。腕を見れば五時を少し回った頃だった。それにしても、お告げの内容どおりだとすると、鳥殻部長が亡くなったあとの会社で私に起こる吉事といえば、人事しかない。近づいた四月だが、次長昇格が前倒しになる、というのか…、いや待てよ、そのことは、すでに織り込み済みのはずだから、お告げの吉事とは、それ以上のラッキーなことなんだろうか…と、私はA・N・Lの入口のドアを潜りながら思った。
A・N・Lで早めの夕食を済ませ、私は家路を急いだ。葬儀に関連した諸々(もろもろ)の雑事で少なからず疲れていたから、帰ってひとっ風呂浴びよう…と、身体が私に命じたのである。家の玄関へ入るや、私はバスルームの蛇口を捻った。勢いよく自動給湯システムの湯が浴槽へと入っていく。少し熱めに設定した湯は、私が着替えたを終えた頃、自動遮断されるのだ。その頃合いも、すべて慣れでわかっている。礼服を箪笥へ収納し、着替えの下着を手にバスルームへと私は向かった。