第141回
結局、私と禿山さんが出した結論は、どうしようもないから終始、社内にいる間は臨戦態勢で気を張りつめている以外、方法はない、というもので、勧められたお茶もそこそこに、私は「それじゃ!」と云うと、警備室の出口へ向かった。いつもは外まで送り出してくれる禿山さんだが、ふたたび施錠をした後は、すぐ臨戦態勢に入って警報制御盤の前で微動だにせず、モニター画面を食い入るように眺めるのみだった。あと二時間弱の残された勤務時間を、何が何でも無事に終了しようとしているのしようとしていたのだ。そこに、警備総長の肩書きに汚点を残すまいとする、禿山さんの、律儀さを垣間見た思いがした。私はそんな禿山さんを見て、こちらもしっかりしないと…と、気を引き締めて第二課へと向かった。
瞬く間に時が過ぎ、ウトウトと睡魔に襲われかけた頃、課員達がガヤガヤと出勤してきた。臨戦態勢という言葉が頭にあるせいか、課員達の小声が聞こえただけで私は自然と両眼を開けることができた。もう何が起きても怖くないぞ…と思うことによって自分自身を鼓舞した。やがて仕事が始まり、小一時間が流れ去ったが、取り分けて大事らしいハプニングは起こらなかった。だがそれは、嵐の前の静けさでしかなかった。