第140回
「いや、起こるという確証はないんです。飽くまでも、お告げなんですから…」
「はあ…。それにしても気がかりですな。私も二時間後には交替して帰りますが、来る者に起こると知っていながら事前説明がなかった、と云われれば、これが泣きますからな」
禿山さんは階級を示す警備服の金筋三本を指さした。なんでも、一本が警備次長、二本で警備長、三本は警備総長らしい。禿山さんは勤続五十年の大ベテランで、警備会社ではものすごく偉い人なのだが、こうして夜勤警備もするただの警備員でもあり、なんというか…、定年制もないそういう、ほのぼのとした社員六名の警備会社に私は好感を抱いていた。
「しかし、お告げがあった、などと、交替の警備員さんには云えんでしょ?」
「はあ、警備長にですか? それはまあ…。ついにボケられた…と思われ、会社に伝わるかも知れんですからな」
「いやあ、それは私でも云えませんよ。課内も、課長はどうかした…と思うでしょうし、鳥殻部長にでも報告されれば、次長昇格の話もオジャンです」
「弱りましたなあ~」
「はい…。だいいち、そのお告げのとおり、大事が起こるとしても、そのタイミングや状況がまったく分かりませんから…」
「そうですなあ…。手の打ちようがありません」
私と禿山さんは、しばし無言となり絶句した。