第137回
私も沼澤さんとは久しく会っていないから一度…とは思った。
その夜は酒棚の玉にこれといった異変もなく、私もいくらか気楽に世間話をして十時過ぎには店を出た。勘定はもちろん私が支払った。思ったとおりそれほど高くなかったのは、私が一見客じゃなかったということもあった。しかし、今日のツマミで出た味噌田楽は実に美味かった…などと思いつつ、眠気駅までの夜道を児島君と漫ろ歩いた。
「君ん家は、どこだった?」
「僕ですか? 僕は新眠気の次の寝坊です」
「ああ、寝坊だったか。それならお互い、余り離れてなかった訳だ…。なんだ、ははは…。そうか、寝坊か」
「はい!」
妙なことで意気投合して、二人は歩きながら笑った。私はいつものパターンで明日の早朝、みかんの近くにある格安料金の駐車場まで車を取りに行き、その足でA・N・Lへ寄って朝食を済ませて出勤…という決まりのコースを取るつもりでいた。そして事もなげに、その日は終わりそうだった。だがそれは、自宅へと帰り着き、睡魔に襲われてベッドへ潜り込むまでの間であった。私がベッドの中で両眼を閉じた瞬間、不意にお告げが聞こえたのである。
『塩山さん、もう眠りましたか?』
「いえ…」
私は姿も見えず気配すらない闇の空間に向け、思わず呟いていた。