第116回
こうなると、もう間違いなく心はパニック状態へと陥っている。私は空き地に駐車した車へ飛び込むと車を急発進させた。すでに運転からして平常心を欠いている…と自分にも分かるのだが、もうこの状況となっては、どうしようもない。半分方、心は動揺していて、事故を起こさないように運転するのが関の山で、私は車を減速させた。夕闇が迫る一本道を十分ばかり走らせていると、心はようやく落ちついてきた。冷静になると、みかんの酒棚に置かれた玉が霊力を発して私に意志の声を伝えたのだ…と思えた。私の現在地は、所持している小玉で分かるのだろう…と、また思えた。外は早くも、とっぷりと暮れ、ヘッドライトを点灯させた。腕を見れば、もう五時過ぎである。半ドンの昼から禿山さん宅を訪れたのだが、随分、長居したことになる。今日は上手い具合に火曜なのだが、この時間帯だとすでに眠気会館の教室は閉じられているに違いない…と思えた。ここでも私の詰めの甘さを思い知らされた。火、土の週二回と聞いた時点で、何時から何時まででしょうか? と訊ねておくべきだった。加えるなら、年末年始のスケジュールも訊く要があった。完全な手抜かりである。そんなことで、この五時過ぎだと沼澤氏をどこで捕捉できるのか皆目、見当もつかなかった。