第115回
しばらく禿山さんと話をして家を退去した。禿山さんは名前の津留男のようなツルッとした丸禿頭を照からせて愛想よい笑顔で家の外まで見送ってくれた。私は、そう大した病状じゃなくよかった…と思いながら車を駐車させておいた空き地まで歩いた。早起は、まだこうした駐車場にもなっていない空き地が点在している。これは田園地帯だった頃の名残りなのだが、そんなに都会化しないでも、この程度でいいんじゃない? と、歩きながら辺りの風景に心で問いかけた。するとその時、どこからか、『そのとおり…』と、賛同する声、いや意志の声が聞こえたような気がした。気のせいか? と思っていると、そうではなかった。続いて舞い降りた? まあ、舞い降りたと表現しておこう…。その意志の声、…これも声と表現すると、人の声のように聞こえる声を連想できるのだが、あくまでも感情の声であって、耳に届いて他の人にも聞きとれる声ではない、なんかそういった意志の声がまたして、『この辺りは、このままの方が不幸にならないのです…』と云った。一瞬、私はこれが沼澤氏の云う、━ お告げ ━ なのか? と思えた。すると、その気持が聞こえたかのように、『そうです。あなたに告げたのですよ』と、返してきた。私は、まさか! と、自分がどうかしているように思え、慌てて駐車した空き地めかけて駆けだした。