第110回
まあ、その辺りの妙が禿山さんの魅力でもある。満面の笑みの赤ら顔で、しかも素早い動きだった。上がってすぐ、私は茶の間へ通された。寝ていないで、よろしいんですか? と、やんわり訊くと、こうして座椅子でゆったりできるまで回復したんですよ、と説明して下さった。そして、会社が無理をせずにゆっくり休んでいいと云ったと、幸せそうに語られた。
「ちょうど年末休暇で会社休みに入りますから、上手い具合にドンピシャ! じゃないですか」
私は口にした瞬間、ハッ! とした。つい先ほどは準備室の若者に同じことを云われ、何が上手い具合にだっ! と、腹を立てかけたのである。その自分が今、こうして同じことを口にしているのだ。私は口にした自分の愚かさに呆れ返った。しかし、そんなことより私の身に起きた異変について語らないと態々(わさわざ)、家を訪ねた意味がない…と冷静になった。
「禿山さん、今日、寄ったのは他でもないんですが…。実は、私に霊力が宿ったのです」
「ええっ! それは本当ですか? 偉いことしゃないですかぁ~」
「はい、それでお話ししようと思って、今ここなんです」
「こりゃ、楽しくなってきたぞぉ~! …いや、思わず興奮してしまいました。その話、詳しく聞かせて下さい」
禿山さんは、いつもと変わらないほど元気に話した。