第109回
メモした手帳を背広へ一端は入れ、社屋出口へと急いだ。
「どうも! お手を煩わせました…」
形だけでも挨拶しておかないと、訊ねた手前、非常識な奴…と思われかねないと浮かんだのだ。
社屋を出て、一目散に社員駐車場へと向かった。慌てながら車中の人となり、手帳の住所を確認し直してそこへ向かった。途中で見舞品を適当に買った。
禿山さんの家は驚いたことに沼澤氏と同じ早起だった。もちろん、早起といってもかなり広い町で当然、世帯数も多いから、ご近所なのかどうかは分からずじまいだったのだが…。沼澤氏と出会う場合は、眠気会館と、双方で了解済みだったから、家を訪ねる予定はなく、住家がどの辺りなのかは分からずじまいだった…ということである。
禿山さんの家は案外、分かりよい所に建っていた。いや、これもよ~く考えれば、玉の霊力で操られるように辿り着いた…という感が、なくもなかった。それだけスムースに事が運んだ、ということである。
「これは塩山さん。態々(わざわざ)、来て下すったんですか…。もうかなりよくなったんですがね…」
「それはよかった…。その後の例の話、聞いて戴こうと思ったら、お休みだと…」
「ここ、分かり辛かったでしょ?」
「いや、そうでもなかったです」
「そうですか? 立ち話もなんですから、お上がり下さい…」
「これ、お見舞いです」
「ああ…こんなこと、して戴かなくてもよかったのに…。そうですか? 戴きます」
禿山さんは割合早く、サッと受け取った。