少年が居る
押入れを開けると少年が寝転んでニンテンドーDSをしていた。
「あ、客、帰った? じゃあオレご飯作るよ」
笑いかけられる。こうしてみると、随分若く、華奢だ。
私の机上にあったのを、移動させられた電気スタンドが、それを照らす。
「ここ、せまくなかったの」
純粋な疑問から聞く。
「別に。ていうか、せまくても、自由にできればいいし」
自由に。って、どの程度自由にするつもりなのだろうか。
こっちも純粋に疑問だ。が、尋ねるのは躊躇われる。
昨晩のような。いや、いや。それより金がかかるほうが参る。
「まあ、あんまり負担はかけないようにするから」
察されたのか、すでに冷蔵庫を開けている少年が、こっちを向いた。
「あんたひきこもりなんだね」
とても澄んだ目だった。
「オレそういう友達いたし、気持ちわかるよ」
ことばも澄みきっていた。
澄みすぎて、地上にはもはやなく、どこにも響かないまま消える。
私は黙りこくった。
好きで黙りこくっているとか、何かの反抗意志を伝えたいとかではなく、言うことがない。
「うまいもの作るよ」
「それは、うれしい」
ようやく言うことがみつかった。
「お姉さんは、処女だったの?」
またみつからなくなった。
「血が出てたもんなあ。うん。オレも、初めてだったんだ。だから感動して、何だか、お姉さんの顔を見ると、胸がドキドキするよ」
キミが、下手だから、血が出たのだよ。
ということを、彼を逆なでせず伝える方法はないのか。
「そう」
ないようなので断念。
「オレ、家事も手伝うし、バイトもするよ? だから、これから仲良くやっていこうよ」
少年が布団に乗り込んできた。
冷蔵庫の扉は開いたまま、選ばれた食材は出しっぱなしになっている。
「ねえお姉さん」
押し付けられてわかるがまた熱い。
いかにも栄養が不足していそうな体のに、どこにこんな熱量を隠しているのか。
「お姉さん。ねえ。食事の前にやりたいよ」
少年の肌はとても白くてきめ細やかなのに、のびすぎに見える髪は真っ黒でボサボサなように。
冷蔵庫は必死に食材を冷やそうとしている。