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名はたむらと言った
「あなたの担当になった、たむらと言います」
「たむら」
「はい。102号さんがひきこもりを脱せるように、これからお手伝いさせていただきます」
たむらはきちんとした身なりで、整った顔立ちの男だった。
「これは、どういった機関が行っているサービスなのですか」
「行政です。厚生省健康局傘下で各自治体の保健所が行っています」
なるほど確かに公務員らしい装いかもしれない。
しかし同じくらいそれらしくない気する。
ちょっと端正すぎる。
「ニュースはご覧にならないのですね」
「ええ、見ての通りに」
うちにはテレビどころかラジオも無い。
「お手紙も差し上げたのですが」
それも見ての通り見ていなかった。
「わかりました。では、また明日のこの時間にまたお伺いします。その時また、ご説明させて頂きます」
たむらが立ち上がる。たむらの腰掛けていた場所に積もっていた埃が盛大に巻き上がりまるで粉雪のように降り注いだ。
地獄のような光景の中で、ひきこもり課の彼は、
「ひきこもり支援課発行の手引きのほうを置いてゆきますので、よく読んでおいてください」
と端正に告げた。
もちろん読む気など起こらない。