3 カカポのパン屋
カカポの森の、小さな木の家。
そこに住んでいるのは、リーナと――
たくさんのカカポ。
朝。
窓から光が入ると、
「ぐぽ」
「ぐぽォ」
「ぐぽぐぽ」
緑色の丸いものが、床でゆっくり動き始めました。
カカポです。
ポポ。
ドン。
マル。
シダ。
タンポポ。
ふわり。
クルミ。
こまめ。
ノロ。
そして。
新しく来た三羽。
さらに。
昨日の夕方、また二羽増えました。
リーナは数えてみました。
「……十五羽」
少し考えて、もう一度数えました。
「……十六羽?」
後ろを見ると、
まだいました。
「十八羽」
リーナは腕を組みました。
カカポたちは、とてもかわいい。
ふわふわで、丸くて、やさしい目をしています。
そして――
よく食べます。
とてもよく。
とても、とてもよく。
「これは……」
リーナはキッチンを見ました。
空っぽの蒸しパン皿。
昨日のクッキーの袋。
半分になったさつまいも。
「食べ物が足りない」
そのとき。
ドンがリーナを見ました。
「ぐぽ?」
お腹が空いた顔です。
リーナは決めました。
「よし」
エプロンをつけます。
「今日はパンを焼こう」
その瞬間。
カカポたちが立ち上がりました。
「ぐぽ!」
「ぐぽ!」
「ぐぽォ!」
パンという言葉は、すでに覚えています。
なぜなら――
おいしいからです。
⸻
パン作りの朝。
リーナは大きなボウルを出しました。
小麦粉。
どさっ。
カカポたちが集まります。
もふ
もふ
もふ
「まだ食べられないよ」
次に水。
それから、
イースト。
塩。
少しだけ砂糖。
「今日はシンプルなパンね」
リーナはこね始めました。
こね
こね
こね
すると、
背中に重み。
振り向くと、
ポポが乗っていました。
「ポポ、そこはパン生地じゃない」
「ぐぽ」
でもポポは、こねる動きをじっと見ています。
どうやら気になるようです。
リーナは生地を少し渡しました。
「触ってみる?」
ポポはくちばしでつつきました。
ぷに。
「ぐぽ?」
もう一回。
ぷに。
「ぐぽォ」
気に入ったようです。
すると。
他のカカポたちも集まりました。
「ぐぽ?」
「ぐぽ?」
気になります。
気になります。
あっという間に、
カカポパン研究会が始まりました。
ドンは生地を押します。
むに。
マルはつつきます。
つん。
シダは――
座りました。
「シダ、それパン」
「ぐぽ」
でも動きません。
仕方ないのでリーナは別の生地を作りました。
「これはカカポ用ね」
するとカカポたちは真剣にこね始めました。
むに。
むに。
むに。
ただし。
パンになる形ではありません。
丸。
とても丸。
カカポ型です。
⸻
発酵の時間。
生地をボウルに入れて、
布をかぶせます。
「少し休ませよう」
カカポたちは、その前に座りました。
じーーー。
じーーーー。
「まだだよ」
でも見ています。
ずっと。
ドンは匂いを嗅ぎました。
「ぐぽ」
パンの匂い。
ほんのり甘い。
だんだん膨らみます。
ポポがびっくりしました。
「ぐぽ!?」
さっきより大きい。
マルもびっくり。
「ぐぽぐぽ」
リーナは笑いました。
「パンは生きてるみたいでしょ」
⸻
生地がふっくりとふくらみました。
リーナはそっと切り分けます。
「今日は特別」
丸くして、
少し耳を作って、
目をゴマでつけます。
「カカポパン」
見た目が――
カカポ。
カカポたちはびっくりしました。
「ぐぽ?」
「ぐぽォ?」
自分に似ています。
ポポはじっと見ています。
ドンは少し考えました。
そして、
ぺろ
味見。
「ドン!」
でも焼く前の生地はおいしくないので、
すぐやめました。
全部並べて、
オーブンへ。
カカポたちはまた並びます。
じーーー。
じーーーーー。
二十羽くらいの視線。
とても圧があります。
「まだだって」
しばらくすると。
ふわぁ。
パンの匂い。
バターみたいな香り。
小麦の甘い香り。
カカポたちがざわざわします。
「ぐぽ!」
「ぐぽ!」
チン。
焼き上がりました。
こんがり。
丸くて。
ちょっとカカポ。
リーナは冷ましてから配りました。
ポポ。
ぱく。
もぐ。
「ぐぽォォォ」
ドン。
ぱく。
もぐもぐ。
ころん。
床に転がりました。
満足です。
次々にパンがなくなります。
リーナは気づきました。
「……二十個焼いたのに」
もうない。
カカポたちはまだ見ています。
「ぐぽ?」
おかわりの顔。
リーナは窓の外を見ました。
森があります。
木があります。
そして、
小さな道。
「……パン屋さん、できるかも」
次の日。
家の前に看板が出ました。
木の板に書いてあります。
「カカポのパン屋さん」
そしてその前には、
丸くてふわふわの店員が並んでいました。
「ぐぽ」
「ぐぽォ」
「ぐぽ!」
世界で一番のんびりしたパン屋さんの、
はじまりです。




