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星の見つけ方  作者: SHIRATORI TOSHIHIDE


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9/35

ーーEP9ーー

「……先に風呂、行くか」


星兄が立ち上がる。

濡れた袖口がひやりとしていた。


【17:38】


湯気がやわらかく視界を包む。

外の荒れ模様とは別世界みたいに、湯は静かだ。


三人が肩まで沈んだところで、先に浸かっていた男性が軽く会釈した。


「こんばんは」


年の頃は四十代後半。

落ち着いた声。旅慣れた雰囲気。


「雨、急に強くなりましたね」


ケンジが天井を見上げる。


「さっきまで静かだったのに」


「山の天気は気まぐれですからね」

そう言って男は穏やかに笑う。


それだけの会話。

特別なことは何もない。


しばらくして、男は先に上がる。


「お先に失礼します」


脱衣所の戸が静かに閉まる。

残された三人は、ただ湯に揺られていた。


「なんか合宿みたいだな」


ケンジが笑う。

「嵐で閉じ込められるパターン?」


「縁起でもない」

星兄が湯をすくう。


そのとき、窓の外で雷が光った。

一瞬、浴室が昼のように明るくなる。


すぐに、低く長い音。


雨脚は明らかに強まっていた。


内湯の窓を打つ雨が、だんだん本気を出してきた時、


「なあ、露天いかない?」

ケンジが立ち上がる。


「今か?」

星兄が眉を上げる。


「こういうとき入らないでいつ入るんだよ」


戸を開けると、外気が一気に流れ込む。

雨音が、壁一枚分だけ近づく。


「ちょっと待て、ほんとに行くのか」


「滝行してくるわ」


言い捨てて外へ。


屋根の端から流れ落ちる水が、ほとんど一本の滝になっている。

湯面は無数の波紋。

雨が温泉に叩きつけられて、白く跳ねる。


「うわ、冷たっ!」


肩に直撃。

でも次の瞬間、湯に沈んで笑う。


「これ、逆にテンション上がるぞ!」


雷が光る。

山の稜線が一瞬だけ浮かび上がる。


内湯から星兄が声をかける。


「修行僧かお前は」


三沢は屋根の下まで出る。

露天の縁に触れ、外を眺める。


「排水、追いついてませんね」


「今それ言うな!」


ケンジが笑う。


湯と雨の境界が曖昧になっていく。

空から落ちる水が、そのまま温泉に混ざっていく。


やがて風が強くなり、雨粒が横殴りになる。


「撤収! 滝行終了!」


肩をすくめながら戻ってくるケンジ。


脱衣所へ入る瞬間、雷鳴が近くで鳴った。

建物が、ほんのわずかに震える。


その振動が、あとでどこかに繋がるなんて、

このときは誰も思っていない。


風呂上がりの火照りをまとってロビーへ戻ると、土産物スペースのあたりで女性三人組がスマートフォンを掲げていた。


「え、圏外になった」


「さっきまで一本あったのに」


「Wi-Fiも弱くない?」


画面を傾け、アンテナ表示を確認している。


ケンジもつられてスマホを見る。


「あ、ほんとだ。なんか不安定」


ちょうどそのとき、照明がわずかに揺れた。

ほんの一瞬、明るさが落ちる。


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