ーーEP7ーー
ーー山道を抜けるころ。
フロントガラスに、小さな点。
ぽつ。
三沢がワイパーを一段入れる。
ケンジ
「また来たな」
スマホの天気アプリを見る。
雨雲の帯が、ちょうどこのあたりをなぞっている。
「ピンポイントかよ」
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
徐々に粒が太くなる。
そのとき。
カーナビが静かに告げる。
「目的地周辺です」
ちょうど宿の看板が見える。
木造の門構え。
山あいにひっそり。
そして。
ザーッ。
雨足が一気に強くなる。
タイミングが良すぎる。
ケンジ
「演出?」
三沢
「歓迎ですかね」
後部座席。
星兄が目を開ける。
「……着いた?」
ワイパーは全力。
宿の玄関が雨ににじんでいる。
ケンジが振り返る。
「星兄、起きた?」
三沢
「ちょうど到着です」
ザーッ。
雨足が一段強くなる。
星兄
「タイミング良すぎだろ」
ケンジ
「星兄が起きた瞬間これだよ」
星兄
「俺のせいにすんな」
三沢
「歴史的には星兄は昼寝武将でしたからね」
ケンジ
「雨乞い成功型」
星兄
「なんだその不名誉な称号」
三人、笑う。
宿の玄関はもう目の前。
石畳が一瞬で濡れていく。
ケンジ
「走るしかなくない?」
三沢
「荷物多いんですよね」
星兄
「三沢、先陣」
三沢
「なんで俺なんですか」
ケンジ
「さっき武将だったし」
星兄
「堅実武将、ここで見せ場だろ」
三沢
「距離3メートルですよ」
星兄
「城門突破頼む」
また笑う。
ドアを開けると本気の雨。
でも三人は、妙に楽しそうに走る。
荷物を抱えて、
ちょっと濡れて、
少し騒いで。
山の宿の軒下に滑り込む。
雨音が屋根に弾かれる。
雨は強い。
でも三人の空気は、
変わらずやわらかい。
玄関の引き戸が静かに開く。
中から女将。
落ち着いた声。
にこやか。
年齢不詳の安心感。
「いらっしゃいませ」
三人、軽く会釈。
一歩前に出るのはケンジ。
「予約してた三沢です」
いつも名前を使われる三沢。
声は明るい。
旅モード。
女将が名簿を確認する。
「三沢様ですね。足元悪い中ありがとうございます」
ケンジ
「いやー、タイミング完璧でした。着いた瞬間これです」
星兄が後ろから。
「完璧ではないだろ」
三沢
「濡れましたしね」
女将がくすっと笑う。
「山の天気は気まぐれでして」
ケンジ
「さっきまで晴れてたんですよ。星兄が起きた瞬間これです」
女将
「まあ」
女将の視線が星兄へ。
星兄
「俺のせいにするな」
三沢
「昼寝武将なんです」
女将
「武将?」
ケンジ
「さっき資料館寄ってきて。あの武将、三沢にそっくりで」
女将が三沢を見る。
三沢、少し姿勢を正す。
女将
「あら、本当。目元が少し」
ケンジ
「ほら」
星兄
「今日からこの宿守るらしいです」
三沢
「守りませんよ」
女将が楽しそうに笑う。
玄関の空気がやわらぐ。
「お部屋、温かくしてありますから」
その一言で、旅が一段落する。
ケンジが振り返る。
「星兄、いい宿じゃん」
星兄
「うん、当たりだな」
三沢
「堅実に選びましたから」
ケンジ
「武将仕事したな」
また小さな笑い。
雨はまだ強い。
でも玄関の内側は、
あたたかい。




