ーーEP6ーー
星兄がスマホを出す。
天気予報アプリ。
雲の帯が、じわじわこちらに迫っている。
「……あー」
ケンジが覗き込む。
「うわ、これ夕方までダメなやつじゃん」
レーダーは赤と青が混ざり始めている。
三沢
「次、展望岬でしたよね」
星兄
「階段多いやつな」
ケンジ
「濡れたら地獄だな」
三人、少しだけ考える。
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
雨粒が増える。
さっきまで観光地だった駐車場が、
少しだけ色を失う。
星兄
「一個削るか」
ケンジ
「削ろう」
三沢
「無理して風邪ひくのもあれですしね」
あっさり決まる。
未練はない。
車に乗り込む。
フロントガラスに細かい点。
ワイパーが一度だけ動く。
ギュッ。
星兄
「まあ、予定は予定だからな」
ケンジ
「旅行は修正力」
三沢
「さっきから名言量産しますね」
エンジンがかかる。
雨は少し強くなる。
でも車内は、さっきと同じ温度。
ヒレカツと生姜焼きとカレーの余韻がまだ残っている。
一つ諦めた。
それだけ。
それでも、
三人の空気は変わらない。
ただ、空だけが静かに崩れ始めている。
ーー車を走らせて20分ほど。
さっきまでフロントガラスを叩いていた雨は、
何事もなかった顔で止んでいる。
ワイパーは休憩中。
海岸線を離れ、道はゆるやかに山へ。
「山来たな」
「空気変わったすね」
三沢が窓を少しだけ開ける。
湿った土の匂い。
宿へ向かう途中、
小さな看板が現れる。
【○○郷土資料館】
星兄
「時間あるし、寄る?」
ケンジ
「戦国系?」
三沢
「武将推しの土地みたいですね」
軽いノリでウインカー。
砂利の駐車場。
平屋の建物。
やや年季。
中に入ると、静か。
木の床が小さく鳴る。
甲冑のレプリカ。
古地図。
年表。
そして奥の壁。
大きな掛け軸。
この土地ゆかりの戦国武将。
鋭い目。
太い眉。
がっしりした輪郭。
三人、止まる。
沈黙、二秒。
ケンジ
「……三沢?」
星兄
「三沢だな」
三沢
「いやいや」
もう一度見る。
似ている。
というか、
寄せにいってるレベルで似ている。
特に目。
ケンジが横に立たせる。
「並んでみ?」
三沢
「やめましょうよ」
立つ。
そっくり。
星兄
「子孫か?」
三沢
「名字違います」
ケンジ
「転生だろ」
三沢
「何を成し遂げた人なんですか」
星兄が説明パネルを見る。
「この地を守り抜いた堅実な武将だって」
ケンジ
「堅実」
星兄
「派手な戦はしないが負けない」
二人がゆっくり三沢を見る。
三沢
「なんですか」
ケンジ
「昼ビール我慢してたな」
星兄
「堅実」
三沢
「そこですか」
資料館の静けさの中、
三人の笑いだけが少し響く。
受付の人が一瞬だけこちらを見る。
でも何も言わない。
三沢が掛け軸を見上げる。
「……なんか親近感ありますね」
ケンジ
「守護神タイプだな」
星兄
「今日の運転も任せた」
三沢
「現代版の働き方ですね」
三人、また笑う。
外に出ると、雲の切れ間。
山の空気はやわらかい。
資料館は静かに佇んだまま。
そして三沢は、
なぜか少しだけ姿勢が良くなっている。




