ーーEP33ーー
男性客は、隠す様子もなく答える。
「ほぼその通りです」
少し間を置く。
「ですが……盗んですぐ、部屋で後悔しました。
売る時点で、どうせ足がつく。衝動的でした」
指先が震えている。
「推理大会が始まる頃には、いつ自白してもよかったんです。
でも、勇気を出して言おうとしたら……」
そこで言葉が途切れる。
男性はケンジを見る。
ケンジはその視線を受け止めきれず、そっと目を逸らし、ロビーのシャンデリアを見上げる。
灯りは変わらず、暖かい。
だがその下で、人は少しだけ不器用だ。
沈黙が落ちる。
怒りよりも、失望よりも、
今そこにあるのは――やるせなさ。
客室へ向かったスタッフが、再び駆け足で戻ってきた。
「ありました!」
息を切らしながら、手に持つスマホの画面を差し出す。
そこには、袋に収められた刀。
その横に、ロープと工具。
動かぬ証拠。
「警察が来た時のために、触らないでおきました」
「素晴らしい判断」
ケンジが小さく拍手する。
どこか無理に明るくしたような音。
「あとは警察にお任せですね」
三沢はそう言いながら背伸びをし、スマホを確認する。
「……まだ圏外か」
女性客たちも同じように画面を見せ合う。
「私も通報しようとしましたけど、繋がらなくて」
雨は、まだ山を握っている。
そのとき。
女将が、ゆっくりと男性客の前に立った。
声は静かだった。
「あの……元々こちらで働かれていたんですよね?」
男性は視線を落としたまま頷く。
「はい」
「お辞めになられたのは……あの頃、でしょうか」
「そう……ですね」
一瞬の間。
女将は少しだけ息を吸う。
「その後は、いろいろご苦労もあったのではありませんか?」
男性は目を合わせない。
「地元を離れ、別の土地で料理人を続けました。ですが昨年、店が閉店しまして……。今は新しい店に入ることが決まっています。ですので、生活には困っていません」
強がりではない声。
女将はゆっくりと頷く。
「そうでしたか……」
そして。
「その節は、申し訳ありませんでした」
女将は、男性客に向かって深く頭を下げた。




