ーーEP32ーー
そして女将に向き直る。
「女将さん。もうよろしいですね。この方は……少なくとも、この点については嘘をついていないと思います」
女将は扉を見つめたまま、小さく首を振る。
「こんな工事がされていたなんて……知りませんでした」
静かな溜息。
「もう結構です。ロビーに戻りましょう」
誰も反対しない。
五人はゆっくりと厨房を後にする。
階段を降りる足音が、やけに重い。
ロビーに戻ると、残っていたスタッフと宿泊客たちが一斉に振り向いた。
空気が張りつめる。
「女将さん、大丈夫ですか?」
若いスタッフが駆け寄り、女将の腕をそっと支える。
女将はかすかに力の抜けた笑みを浮かべる。
「ええ……大丈夫です」
だがその声は、少し掠れている。
「刀はどこに?」
戻るなり、ケンジが間髪入れずに問う。
男性客は静かに答える。
「私の泊まっている部屋にあります。ロープや工具も一緒に」
ロビーがざわめく。
女将は一人のスタッフに視線を向ける。
「お部屋を確認してちょうだい」
「わかりました」
スタッフは緊張した面持ちで頷き、駆け足で廊下へ消える。
その背中を、全員が見送る。
沈黙。
時計の秒針だけが、やけに大きく響く。
男性客は俯いたまま動かない。
星兄はその横顔を観察している。
三沢は腕を組み、壁にもたれる。
相沢は落ち着かない様子で足を組み替える。
時間が伸びる。
星兄はロビー中央に立ったまま、穏やかな声で話し出した。
「今日の状況的に……盗むなら今日だと思ったんですよね?」
男性客はゆっくりと頷く。
星兄は続ける。
「盗みに成功した。あとは夜中に宿を出ればいい。
ところが土砂崩れで通行止め。外に出られない」
ロビーの誰もが静かに聞いている。
「侵入経路は巧妙でした。厨房の棚で隠れている。普通は気づかない。
でも保管庫ではタンスがずれていた。そこから髪留めが見つかった」
女性客の一人が小さく息をのむ。
「女将さんの時計の見間違いが起きたことで完璧なアリバイができた。
でもその見間違いが分かりアリバイが崩れた。……時間の問題だと思った」
星兄はまっすぐ男性を見つめる。
「そんなところですか?」




