ーーEP3ーー
【旅行当日 07:57】
約束通り、星兄の家の前に一台の車が止まる。
運転席に三沢。
助手席にケンジ。
エンジンはかけたまま。
朝の空気はまだ少しだけ冷たい。
スマホの画面が 7:57 を示す。
二人は無言。
三沢は宿を探している。
昨夜の“山”という雑なキーワードから絞り込み中。
指の動きは静かで早い。
ケンジは動画を見ている。
フードファイターが巨大カレーに挑んでいる。
残り三分。
たぶん無理。
7:59。
二人とも画面を見ている。
待っているわけではない顔。
8:00。
インターホンは鳴らさない。
鳴らす文化はない。
8:04。
ケンジが笑う。
「絶対まだ歯磨きしてる」
三沢
「いや、服選んでますね」
8:08。
三沢が言う。
「宿、ここどうですか。山の奥。温泉あり」
ケンジ
「いいじゃん。星兄に言お」
8:10。
玄関のドアが開く。
星兄が出てくる。
普通の顔。
少しだけ急いでいる歩き方。
ドアを閉めながら言う。
「いやー悪い悪い、考え事してたわ」
ケンジ
「毎回それ」
三沢
「今回は何についてですか」
星兄
「人生」
間。
ケンジ
「朝から重い」
星兄が後部座席に乗り込む。
シートが軋む。
いつもの位置。
三沢がミラー越しに一瞬だけ確認する。
全員いる。
「出しますね」
エンジン音が少しだけ上がる。
この遅刻も、
この言い訳も、
この空気も。
全部、いつものこと。
だから誰も疑わない。
この旅行が、
“いつも”じゃ終わらないことを。
車はゆっくりと住宅街を抜ける。
コンビニ。信号。見慣れた交差点。
いつもの景色が後ろに流れていく。
ケンジ
「で、どこ行くんだっけ」
三沢
「とりあえず海沿い出ます。そこから考えます」
星兄
「計画性ゼロだな」
ケンジ
「旅は余白だよ」
星兄
「余白しかねえだろ」
笑いが一つ。
やがて道が開ける。
視界の端に、海。
ケンジがすぐ反応する。
「うわ、旅行っぽ!」
星兄
「まだ県内だぞ」
三沢
「でも海は海です」
窓を少し開ける。
風が入る。
塩の匂いがほんの少し。
ケンジがスマホを掲げる。
「ちょっと待って、動画撮る」
星兄
「何の」
ケンジ
「“男三人、急遽ドライブ”ってタイトル」
星兄
「再生数二桁だな」
三沢が真顔で言う。
「サムネは星兄が腕組んでるやつで」
星兄
「誰が見るんだよ」
でも腕は組む。
条件反射。
海岸沿いの道を走る。




