ーーEP28ーー
20時15分は、すでに食事が始まっている時間帯だ。
スタッフも少人数。厨房は空。
つまり、ほとんど全員が大広間にいた。
けれど。
「食事中はみんな自由に席を立っていたよね」
トイレ。
電話。
廊下で少し外の空気を吸う。
ほんの数分なら、誰も強くは気にしない。
大広間に“いた”ことと、
ずっと“見られていた”ことは、同じではない。
鏡の中の数字は沈黙している。
だが45分という時間だけが、確実に存在している。
その中で、誰が、いつ、どこへ動いたのか。
雨音が、規則正しく刻む。
時間は嘘をつかない。
けれど人は、案外あっさり勘違いする。
ーー誰にでも犯行の時間がある。
ざわつき始めたロビーの後方で、ゆっくりと手が挙がった。
あの、穏やかな一人客だ。
「どうかしましたか?思い当たる節でも?」
三沢が一歩前に出る。
声は冷静だが、視線は鋭い。
周囲の客が、無意識に一歩退く。
半径一メートルの空白ができる。
男性はその空間の中心で、周囲を見渡し、静かに言った。
「さっきも言いましたけど……私なんです」
ロビーの空気が止まる。
「えっ?」
「ん?」
誰も動かない。
「えっと、それは……どういう……本気で?」
三沢の声に、わずかな揺れ。
男性は女将の方へ向き、ゆっくりと膝をつく。
「本当に、申し訳ありませんでした」
そのまま深く頭を下げる。
額が床につく。
だが。
暴気はない。
逃げる気配もない。
凶器を隠しているような緊張もない。
食事中も、マジックショーの時も見せていた、あの穏やかな空気のまま。
止まった時間をこじ開けるように、ケンジが口を挟む。
「え、マジなんですか?
なんで? てか、なんでもっと早く言わないんですか?」
男性は顔を上げる。困ったように眉を下げる。
「いや……さっき言おうとしたじゃないですか。そしたら、“そういうのいいから”って」
「あ」
星兄とケンジが同時に顔を見合わせる。
「あの時か……」
ケンジと相沢のやり取りが、妙に遠い。
「まぁまぁ、それはまぁそれとして」
ケンジが視線を逸らし、強引に進める。
「なんでそんなことしたんですか?
刀のこと、知ってたんですか?」
ロビーの全員が、男性の口元を見つめる。
雨音だけが、変わらず続いている。




