ーーEP25ーー
視線が相沢へ向く。
「相沢さんは、女将さんの挨拶で登壇されるまで姿が見えませんでしたよね。その間は?」
ケンジが前のめりになる。
「あ、やっぱり!」
三沢が即座に制する。
「ケンさん、少し」
その一言で、ケンジは椅子に戻る。
相沢は、わずかに目を泳がせる。
「わ、私は舞台袖にいました。女将さんと段取りの打ち合わせをしていましたし……」
「それに、私は9時前には会場入りしています」
三沢はうなずく。
「分かりました。ありがとうございます。もう少し考えます」
沈黙。
強い雨音だけが、窓を叩いている。
星兄が低く呟く。
「女将さんが刀が無いことに気がついて、このロビーで僕らに声をかけたのが21時45分……約40分の空白か」
ふと顔を上げる。
「あれ、今何時だ?」
ロビーを見回す。
壁にも柱にも、時計はない。
女性客のひとりがスマートフォンを取り出す。
「22時50分ですよ」
「ありがとうございます。もう1時間以上経つのか……」
星兄は、ゆっくりと視線を巡らせる。
そして、止まる。
さっき、自分は何と言った?
“フロントの時計を見たら21時5分だった”
ロビーに、時計はない。
では。
女将は、どこで時刻を確認した?
雨音が一段強くなる。
誰も、すぐには口を開かない。
時間だけが、音もなくこちらを見ている。
星兄が、ゆっくりと女将を見る。
「女将さん。このロビー、時計はありませんよね?」
「はい、その通りです」
「では、どうやって21時5分を確認されたんですか? 急いでいる途中でフロントに入った?」
女将は首を振る。
「いえいえ。急いでいましたし、フロントには寄っておりません」
そして、柱を指さす。
「ちょうどあの鏡貼りの柱に、フロントの時計が映るんです」
一同の視線が集まる。
旅館特有の、装飾を兼ねた柱。
磨かれた鏡面が、光をやわらかく返している。
女将は再現するように歩き出す。
足取りは少し早い。
柱の手前で止まり、横を向く。
「ここです。ほら」
星兄が隣に立つ。
確かに、鏡の中にフロントの時計が反射している。
「ここで確認されたんですね。了解です」
星兄は柱から視線を外さないまま続ける。
「仮に。大広間から抜け、保管庫に入り、刀を持ち出し、どこかに隠し、何事もなかったように戻る。これを3分でやれれば……例えば相沢さんは可能ですね」




