ーーEP23ーー
三沢の問いに、女将はゆっくりと記憶を探る。
「本日は……お恥ずかしながら、ご覧の通り余裕のある状態でして」
ロビーを見渡す。
「スタッフの人数は少なめですが、通常通り営業しておりました」
三沢は小さく頷く。
「細やかな配慮で、とても良くしていただいています」
女将は微笑む。
「ありがとうございます。ただ……帯を取りに保管庫へ入ったのは、ショーの始まる挨拶の時間でしたので。少々、慌てていたかもしれません」
星兄が視線を細める。
女将は続ける。
「違い、と言われましても……」
ふと、何かを思い出したように顔を上げる。
「あ、小さなタンスに帯をしまっているのですが。帯を取り出す時に、昔なくした髪留めを見つけました」
女性三人組が小さく反応する。
「引き出しはほとんど空ですので……閉めた時に位置がずれたのでしょうか。大切にしていた物でしたから、見つかって嬉しかったです」
星兄がすかさず問う。
「帯を取りに行った時、ということは……刀が無くなる前ですね?」
女将は「あら」と小さく声を漏らす。
「ごめんなさい、そうですね。帯を取りに行った時ですから、その時は刀はありました」
言い直す。
「無くなった時との違い……正直、違いがあったとは思えません」
三沢は静かに言う。
「でも、大切な物が見つかったのは、それはそれで良かったですね」
ほどいていた腕を組み直し、天井を見上げる。
その目は、何かを組み立てている。
慌てていた時間。
ほとんど空の引き出し。
大切にしていた髪留め。
小さな出来事が、静かに積み上がる。
しばしの沈黙。
その中で、そろそろ何か言いたくて仕方ない顔をしている人物が一人。
マジシャン相沢である。
「……あの」
全員の視線が集まる。
「私も、ひとつ思いついたんですが」
ケンジがにやりとする。
「今度はちゃんとしたやつですよね?」
「ええ、もちろんです」
相沢は胸を張る。
「刀はですね、実は最初から“ここ”にあったんですよ」
ロビーを指さす。
一同、きょとん。
「広間に全員がいる。その最中に刀を移動させるのは不可能。ならば逆転の発想です」
芝居がかる。
「刀は、最初から保管庫には無かった」
ケンジが手を挙げる。
「さっき女将さんが“あった”って言ってましたけど?」
「そこです」
相沢、ぐっと身を乗り出す。
「刀は透明だったんです」
静止。
三沢のまばたきが一回。
「……透明?」
「はい。特殊な塗料で透明にしておき、必要な時だけ色が戻る仕組みです」
ケンジが即座に突っ込む。
「どこの未来兵器ですか!」
「いや、あるかもしれないじゃないですか!」
その横で。
相沢の隣に座る男性客が、そっと手を膝から浮かせた。




