ーーEP22ーー
時間が、揺らいだ。
星兄は静かに微笑む。
「なるほど。前提を疑う、か」
女将はゆっくりと視線を落とした。
自分の記憶を、もう一度手繰り寄せるように。
「……まず最初に、私は別の用事で保管庫に入りました」
静かな声。
「着物の帯を取りに行ったんです」
あの時の空気。
畳の匂い。
引き戸の感触。
「ですから、電気もつけました。タンスを開けて、帯を取り出して……」
一拍。
「そのとき、刀も確かに見ています」
言い切る。けれど。
「……見た、と思います」
ほんのわずかに、語尾が揺れる。
「保管庫は暗くありません。照明もついていましたし、いつも置いてある場所です」
女性客が小さく息をのむ。
女将はゆっくり顔を上げる。
「私は……あるものを“あるつもりで見た”わけではありません」
自信はある。
けれど。
人は、自分の記憶を百分の百保証できるだろうか。
その問いが、場に静かに落ちる。
星兄は女将の言葉を遮らない。
三沢は「電気をつけた」という部分を反芻している。
光はあった。
時間も確認している。
それでも。
本当に、刀はそこにあったのか。
空気が、またひとつ重くなる。
星兄が、穏やかに女将へ向き直る。
「無くなったことに気がついたときも、電気はつけていましたか?」
女将は迷いなく頷く。
「えぇ。電気をつけて、すぐに気がつきました。刀は入り口から見える場所にありますし……存在感もありますから」
その言葉には、長年守ってきた誇りが滲んでいる。
星兄はゆっくりと息を吐いた。
「ですよね。そう考えると、“無いものをあると見間違える”のは、少し難しそうですね」
視線を女性客へ向ける。
彼女は肩をすくめる。
「やっぱりそうですよね……でしゃばって、ごめんなさい!」
「いえいえ」
星兄は即座に首を振る。
「どんどん出していきましょう。正解じゃなくても、ヒントが隠れていることはあります」
そのまま、さりげなく三沢へ目線を送る。
三沢は小さく頷く。
「帯を取りに入った時と、無いと気づいた時。保管庫の様子に違いは?」
短いが、芯を射る問い。
場の空気が、再び静かに研がれていく。
笑いの余熱は残っている。
でも今、確実に推理は前に進んでいる。




