ーーEP21ーー
ケンジの推理は派手だ。
だが、穴はあるのか。
星兄は腕を組み、目を細めている。
三沢は相沢の靴先から指先まで観察している。
疑いの火は点いた。
だが、それが真実を照らしているのか、
それとも影を濃くしているだけなのか。
まだ、誰にも分からない。
「ケンジ、気が済んだか?」
星兄は口元を押さえながら、あえてケンジを見ない。
「あー……ごめん。絶対無理だよな」
ケンジは一瞬で少年に戻る。
「相沢さん、ごめんなさい! ちょっと探偵っぽくしてみたかっただけなんです」
手を合わせ、深々と頭を下げる。
相沢は一拍おいてから、肩の力を抜いた。
「もー、勘弁してくださいよ。やってないのに焦っちゃいましたよ」
胸を押さえ、大きく息を吐く。
女性三人組から小さな笑い。
男性客も苦笑いを浮かべる。
女将もほっとしたように目を細めた。
疑いの刃は、いったん鞘に収まる。
だが、刀はまだ戻っていない。
ロビーの空気は、さきほどより少しあたたかい。
それでも足元には、消えない違和感が転がっている。
星兄は静かに言う。
「冗談はさておき……本当に不可能かどうか、もう一段考えましょう」
遊びは終わり。
謎解き大会は、ここからが本番だ。
今度は女性客のひとりが、すっと手を挙げた。
「はい、私もいいですか?」
なぜか全員の視線が星兄へ向く。
星兄は軽く顎を引く。
「どうぞ、名探偵」
その一言で、彼女の背筋がすっと伸びた。
「では……僭越ながら」
咳払いをひとつ。完全にケンジの影響である。
「今回のポイントは、“消えた”という前提そのものにあります」
ケンジが小声で「おお…」と感心する。
「刀は21時5分に“あった”と確認された。でもそれは、本当に“あった”のでしょうか?」
視線が女将に集まる。
「すり替えではありません。すり替えなら、代わりの刀がそこにあるはずです」
彼女は人差し指を立てる。
「そうではなく……」
一拍。
「もうすでに、無かった」
空気が静まる。
「暗い保管庫で、思い込みと記憶で“あるように見えた”だけ。実際には、その時点で刀は存在していなかった可能性はありませんか?」
女将がわずかに眉を動かす。
女性客は続ける。
「人間の記憶は曖昧です。急いでいたり、いつもそこにある物だったりすると、脳が勝手に“ある”と補完してしまうことがあります」
三沢が腕を組み直す。
ケンジが小さく呟く。
「見た気になってただけ、ってことか……」
「はい。だから密室でも、全員が広間にいても関係ない。刀はもっと前に消えていた。21時5分という時刻そのものが、ミスリードかもしれません」
言い切ったあと、彼女はほんの少し照れくさそうに咳払いをした。
「……以上です」
拍手はない。
だが、場の空気が一段深く沈んだ。




