ーーEP11ーー
【夕食会場19:30】
会場の襖を開けると、湯気と灯りがふわりと広がった。
中央に並ぶ料理台。
陶器の大皿、湯気を立てる鍋、氷の上に整然と並ぶ刺身。
想像よりも品数が多い。
ケンジが思わず足を止める。
「豪華じゃん」
星兄が軽くうなずく。
「三組だけなのにな」
すでに二組は取り始めている。
窓際の卓には、あの一人客。
風呂で見かけた男だ。髪はまだわずかに湿っている。
料理は一通り揃っていて、静かに箸を動かしている。
女性三人組は料理台の前でにぎやかだ。
「これ美味しそう」
「ちょっと待って、それ取りすぎ」
笑い声が湯気に溶ける。
女将が近づいてくる。
「地元の山菜と川魚を中心にご用意しております。猪鍋は火をつけていただければ温まりますので」
落ち着いた声だ。
「日本酒は三種。飲み比べもできますよ」
ケンジが小声で言う。
「連休仕様だな、これは」
星兄
「ありがたくいただこう」
三沢は料理台を一通り見渡す。
「中央一列。取りに行けば必ず誰かとすれ違う配置ですね」
ケンジ
「また始まった」
奥の一人客は、こちらを見ない。
だが箸を止めるタイミングが、ほんの一瞬だけ遅れた。
雨音が低く続いている。
夕食会場は賑わいを持ち始める。
猪鍋の湯気がゆらりと立ち上る。
味噌の甘い香りが鼻に残る。
「これ、当たりだな」
星兄が椀を置く。
ケンジはすでに二巡目だ。
「山菜もちゃんと苦い。変に観光地味じゃない」
三沢は川魚の塩焼きをほぐしている。
「火の入り方が丁寧ですね」
女性三人組の席からは笑い声が絶えない。
「ちょっと、それ私の!」
「早い者勝ちでしょ」
日本酒の瓶が回り、空気が柔らかくなっていく。
窓際の男性客も、料理を取りに立ったついでに女性たちと言葉を交わしている。
「この猪鍋、初めて食べましたが美味しいですね」
「ですよね。思ったよりあっさりしてて」
自然なやり取りだ。
さっきまで他人だった七人が、同じ鍋の湯気を吸っている。
ケンジがグラスを傾ける。
「三組でこれなら、むしろ贅沢だな」
星兄がうなずく。
「連休も悪くない」
三沢は周囲を一瞥する。
料理台は少しずつ皿が減り、代わりに空の小鉢が増えている。
雨音は続いているが、もう気にならない。
満腹と酒が、場の輪郭を丸くする。
そのときだった。




