旅は突然にーーEP1ーー
巻き込まれた、少し厄介な夜。
それすらも笑い飛ばす余興。
愉快な三人の、寄り道の旅。
少し前のことを話そうか。
新緑がいちばん調子に乗る季節だった。
昼間はやわらかい光が街を照らし、
気を抜くと汗ばむ。
梅雨の気配はまだ遠く、空はわりと機嫌がいい。
夜になると空気は一枚だけ薄くなる。
羽織を忘れると、ほんの少し後悔する程度。
湿気はまだ本気を出していない。
晴れ間が続く。
理由なんてなくても出歩ける、そんな季節。
僕らが居酒屋に集まったのも、
退屈が腐る前に、
少しだけ動いてみようかと思っただけ。
たぶんそれくらいの動機だった。
【旅行前夜 22:11】
駅前の居酒屋。
テーブルは少しベタついている。信頼できる。
ジョッキ三つ。
枝豆ひとつ。
誰も手をつけていない唐揚げが一皿。
ケンジ
「星兄さ、最近つまんなくない?」
いきなり雑。
星兄
「唐揚げ食えよ」
三沢は無言で一個取る。
咀嚼が静か。
ケンジ
「なんかさ、仕事して、帰って、動画見て、寝て。ループじゃん」
星兄
「大人ってそういうもんだろ」
ケンジ
「いや、星兄が言うと重いのよ」
三沢がグラスを置く。
コン、と低い音。
三沢
「たまには外出ますか」
星兄
「出てるだろ。ここ」
三沢
「遠く」
ケンジ
「山とか良くない?」
沈黙、三秒。
星兄
「なんで山」
ケンジ
「なんかリセット感あるじゃん」
星兄
「スマホ初期化みたいに言うな」
三沢
「温泉とか」
ケンジ
「いいね。星兄、最近顔が平日だし」
星兄
「意味がわからん」
ケンジ
「疲れてる顔ってこと」
星兄
「別に」
三沢
「否定が弱いっす」
少しだけ笑いが落ちる。
ケンジ
「明日、空いてる?」
三沢
「空いてます」
星兄
「まあ」
ケンジ
「じゃ、行っちゃう?」
星兄
「どこに」
ケンジ
「決めるのは明日」
三沢
「ノリですね」
星兄はジョッキを持つ。
少し考える。
慎重な顔をしている。
でももう半分は決めている。
星兄
「朝、8時な」
ケンジ
「決まり」
三沢は小さくうなずく。
特に理由はない。
深い動機もない。
ただ三人とも、
ほんの少しだけ退屈していた。
まだこの時は、
山も、雨も、
何も関係ない。
ただの飲み会の延長。
たぶん。




