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ヒロインらしきものは去ったけどもうちょっとだけ続きます!  作者: 馬面


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第06話 意外な関係

 校舎裏って不良の溜まり場とか大人しい子がイジメっ子に絡まれてるみたいな不健康イメージがあるけど、実際にはそんなことはまずない。大抵は部活をサボってたり個人練習してたりする生徒が集まるからな。


 野球部なら素振り、サッカーならリフティングには最適な場所だし、何より俺たちテニス部にとっては壁打ち――――壁に向かってボールを打ち、返ってきたボールをまた打つ反復練習に最適な場所だ。


 壁打ちはフォームやスタンス、スイートスポットのチェックもできるし、イライラしてる時には全力かつ無心で打てる。ストレス解消も兼ねているから好きな練習の一つだ。だから中学時代は結構重宝したんだけど、この高校の男子ソフトテニス部はあまりやっていない。


 ……にしても月坂先輩、無口だな。さっき俺のフルネームを呟いて以降一言も話してない。職員室では終始無言だった。


 人見知りなんだろうか? それとも、この状況自体に過度なストレスを感じていて口を開くのも嫌とか?


 それも普通にあり得るよな……


「あ」


 うわビックリした!


 急に声出すじゃん……まさか『この先輩全然喋らないな』って顔に出ちゃってたか?


「スマホ見ていい?」


「あっはい。勿論」


 なんだ。着信あっただけか。


 この学校、昼休みと放課後はスマホ使用OKなんだよな。俺は正直どうでもいいけど、スマホを校内で使えるかどうかで受験する高校を決めるって奴も結構いたくらいだし、学校側も生徒を集めるために寛容にならなきゃならないんだろう。


「一茉里からLINE来た」


「……へ?」


「篠原君、電源切ってる? 既読も付かないって怒ってる」


 いや確かにスマホの電源なんて入れてないけど、それより一茉里って……


「天和一茉里と知り合いなんですか?」


「うん。私の師匠」


 ししょう?


 支障じゃないよなこの場合。師匠? テニスの師匠ってことか? それなら年下でも不思議じゃないけど……天和って最初からマネージャーとして入ったからプレイヤーとしての姿は一度も見たことない。


「それって……」


 げ。いない。


 もうあんな前歩いてる。結構マイペースな人なんだな。猫タイプか?


『月坂先輩ってファンクラブがあるくらいだからな』


 不意に、さっき石田が言っていた言葉を思い出す。


 これだけの美形だし何の不思議もないけど、それでこの感じだと周りの女子から良く思われていない可能性があるな。無自覚系なイケメンや美女って同性受け悪いからな……それなら他の女子部員が殆どノーリアクションだったのも説明が付いちゃうし。


 もしそうなら、俺と似た境遇ってことになる。意外と親近感を抱けたりするかも。


 ま、全部机上の空論だし月坂先輩の好感度を俺が気にしても仕方ない。それより先輩に混合ダブルスをやっていく意思があるのかどうかの方がずっと大事だ。


 んじゃとっとと移動するか。スマホは歩きながら見りゃいいし。


 ……通知バッジの数字が見たことない数になってる。後回しにしよう。





 校舎裏は珍しく女子が二人いるだけだった。


 勿論名前は知らない。テニスウェアの色が地味だから、多分一年かな。


 学生の部活動に潤沢な資金がある訳ないから、ラケットやテニスウェアは当然自分で購入することになる。練習用のテニスウェアは部で統一するケース、学年ごとに統一するケース、各自自由に好きなデザインの物を着るケースと学校によって様々だけど、蒼月高校のソフトテニス部は校風に従い男女ともに自由に決められる。


 ただ、不文律って訳じゃないけど一年生が派手なテニスウェアを着ることはない。一年ごときが目立つな、って無言の同調圧力があるからな……俺は質素な方が好みだから何も問題ないけど、派手に着飾りたい人には辛い一年間になるんだろうな。


「あ……」


 俺、というより月坂先輩を視認した途端に二人の目付きが変わった。かなり気まずそうだ。


 やっぱり月坂先輩、俺以上に部内で浮いた存在っぽいな。


「えっと、使います?」


 恐る恐る話しかけてきた女子部員に対し、月坂先輩は返答に困っている。

 

 使うことは使う。でも別に壁打ちする訳じゃないし、俺たちが使うからって遠慮して空けて貰うってのも違う。その葛藤で悩んでいるんだろう。


 つーか仮に壁打ちするにしても、別に四人並んでも十分できるだけのスペースはあるんだよ。その上で聞いてくるんだから多少なりとも他意はあるんだろうな。


 女子ソフトテニス部の人間関係なんて一切知らないけど、なんとなくここは俺が対応した方が良い気がする。こういうのは部外者の方が波風立たないし。


「ちょっと端っこの方で打ち合わせをしたかっただけなんで、大丈夫です」


 一体何が大丈夫なのかは言われた方も言った方もイマイチわからない。けど、とりあえず丸く収まる魔法の言葉。『大丈夫』って言葉を発明した昔の人に何か賞をあげて欲しい。


「はーい」


 女子二人が冷めた顔で壁打ちを再開したのを見届け、奧の方へ向かう。


 ……これだけ離れてれば視界にも入らないだろう。 


「それじゃ、ここで」


 俺の言葉に月坂先輩は即座に頷く。ボーッとしているようで話はちゃんと聞いてくれているみたいだ。思ったより話しやすい人なのかも。


 けど、それに甘えていきなり『このダブルス続ける気あります?』とは聞き辛い。こういう時はまず共通の話題で空気を解すに限る。


 当然、天和の件だ。


「さっきの話の続きなんですけど、天和からテニスを教わったんですか?」


 月坂先輩は少し迷ったのち、静かに頷いた。というか天和のLINEにほぼ記載されていたから大体の関係性は把握済みだ。


 二人は家が隣同士で、小学生の頃から交流があるらしい。


 面倒見が良くて気が利く天和は、三つ上の月坂先輩相手でも物怖じせず何かと世話を焼き、コミュニケーションが苦手な月坂先輩を常に引っ張る存在だったそうだ。


 何の趣味も持っていなかった月坂先輩にソフトテニスという競技があると教えたのも天和。ただし最初は親も交えて市が管理してるテニスコートで汗を流す程度で、月坂先輩はそのまま中学でソフトテニス部に入学。一方の天和はプレイヤーとしての才能に限界を感じていて、知識と経験を活かせるマネージャーの道を選んだ。


 でも三歳差の二人は中高で同じ時を過ごせない。天和が男子の方のマネージャーを選んだのは、月坂先輩がいないことも理由の一つだったんだろう。


 要するに、この二人はテニスにおける師弟関係じゃない。あえて言えば――――


「人生の師匠」


 ということらしい。





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