第24話 大不合格
相変わらずマイペースな奴だけど、LINEで済ませず直接言いに来るのはあいつの優しさなんだよな。俺があんまりLINE確認しないの知ってるから。
にしても、なんであいつが新聞部の言伝を任されたんだ? 幾ら同じ文化部でも、新聞部と文芸部なんて大して接点なさそうだけどな。学校新聞にコラムでも書いてるのか?
「……な、なあ。今のって一組の来会だったよな? お前の幼なじみの」
「そうだけど」
「なんつーか、スゲーよな。あんな唐突に現れてんのにシームレスで会話が成立するんだもんなあ」
「あいつ昔から神出鬼没なんだよ」
こんなことでいちいち驚いてたら来会の相手はできない。ガキの頃からずーっとこんな感じだからな。
「はー……そんな熟年夫婦みたいな関係で付き合ってねーのマジで意味わかんねえ。そんで今は月坂先輩と毎日たっぷりお話できんだろ? お前いつか刺されんじゃねーの? 俺に」
「冗談に聞こえないんだよ」
今の俺は理久だけじゃなく、月坂先輩のファンクラブ会員からも狙われてる身。大真面目に遺書を書いておいた方が良いかもしれない。
「そういやタクちゃんさ、月坂パイセンの連絡先って知ってんの? 今日雨っぽいじゃん。放課後どーすんの?」
……あ。
確かにマズい。
普通のテニス部なら、雨が降った場合はとりあえず部室かコートの近くに集まって、キャプテンが顧問に今日どうするかを確認しに行く。
でも今の俺たちには明確な集合場所が存在しない。顧問の指示を仰ぐこともない。かといって雨の中をわざわざ彩彩アスレティックパークまで行くなんて馬鹿げてる。
つまり合流のきっかけがない。
いや、一応あると言えばある。放課後になった直後、ダッシュで先輩のクラスに行けば確実に会える。
会えるけど……まず無事じゃ済まない。もしそのクラスに先輩のファンクラブ会員や先輩に片想いしてる男子がいたら大変なことになる。
それに、これは恐らくないとは思うけど――――
もし恋人がいたらどうなるよ? 修羅場なんてもんじゃねーぞ?
「仕方ない。あいつに頼るのは癪だけど、天和に連絡入れて貰うか」
「別れた後輩をそんな便利屋扱いするのってゲスくない?」
「せめて『離れ離れになった』とか言えって! また色々誤解されるだろ!」
そんな俺の不安は的中し、この時を境に近くの席の女子から冷たい視線で見られるようになった。
なんてことがありつつ、放課後。
予報通り昼休みが終わった直後から雨が降り始め、暫く土砂降りレベルの豪雨になっていたこともあってコートは水浸しになっていた。
当然、彩彩アスレティックパークのコートも同じコンディションだろう。今はもうパラパラ降る程度になってるけど、とても使えそうにない。
天和にLINEで『今日は部活休みって月坂先輩に伝えといて』と送ってみた。
既読早っ。返信早っ。
『了解道中膝栗毛』
……これまだ現役なのか。寿命なげーな。流行ったの小学生の頃だぞ?
ま、とにかく先輩への連絡はこれでよし。それじゃ新聞部にお呼ばれするか。
……一人だと心細いな。前みたく姫廻が一緒に来てくれたら助かるんだけど、今日に限って教室に来やしねー。かといって俺から三組へ出向いて頼むのは小っ恥ずかしい。
ここはコミュ力バグってるリオに頼んで……あ、いない。もう帰ったのかよあいつ。
理久もとっくに部活に行ってるし、彼氏持ちの来会に同行を頼む訳にはいかない。
俺が頼りにできる人間は以上。ホント人脈スカスカだよな俺……
仕方ない。覚悟を決めて一人で向かおう。
一体何の用事なんだか――――
「新聞部へようこそ。僕は部長の九鬼雷雲。この前は僕が忙しくて対応できず申し訳なかったね」
奧の応接室で向かい合わせに座る新聞部部長は、控えめに言ってイカつかった。
彫りの深い顔にオールバック。剃り残しなのか生えるスピードが爆速なのか、口の周りと顎にはうっすら髭が見える。
制服だから体型はわかり辛いけど、多分かなり鍛えている。
……新聞部って文化部だったよな? 何このアウトロー感。半グレの格闘家って言われても違和感ない。全身でタトゥーとビートを刻みそう。
「まずは心からお詫びしたい。例の記事は配慮に欠けた内容だった。君や月坂君に別の恋人がいた場合を全く想定していなかった」
凶暴そうな外見とは裏腹に、切々と語りながら深々と頭を下げてくる。この見た目と名前でインテリヤクザ系か……こっわ。
「とはいえ、あの記事は校内でバズってしまったし今更取り下げたところで余り意味がない。だから印象をブラッシュアップする為に、君たちに関する新しい記事を書きたいと思うんだ」
「……取材させろってことですか?」
「その通り。できれば月坂君と一緒にね」
ああ、やっぱり見た目通りの汚いやり口だ。
最初は本人に無許可で下世話なゴシップ記事を掲載。それを餌に俺を釣り、今度は月坂先輩への取材を敢行って流れを最初から想定してたんだろうな。一粒で二度美味しいってやつだ。
「お断りします。新聞部にそこまで協力する義理もないですし」
「おっと、即答か。一年なのに中々度胸あるね君」
強面の顔でニコッと笑われても威圧感しかない……急にこの部屋が反社の事務所に思えてきた。
「それじゃ腹を割って話そう。僕はね、正直君には全く興味がない。君は数字持ってないからね」
今度は投資家の説教を撮影するスタジオに見えてきたんですけど……何なんだよこの人。胡散臭さの権化か?
「だけど月坂君は別だ。彼女はこの学校で一番数字を持ってる。彼女の記事を書けば内容が何であれインプ大稼ぎ確実さ」
「だから俺に先輩を引っ張ってこいと?」
「当然、相応の謝礼は用意するよ。学生だからお車代って訳にはいかないけどね」
使う言葉が中途半端に業界通気取りで鬱陶しい。それでいて大したことは何も言ってない。要は自分たちじゃ月坂先輩を取材できないから俺に便宜を図らせようってだけだからな。
「もし僕たちに協力してくれるなら、彼女のプライベート情報を共有してもいい。どうだ?」
「ははは」
思わず乾いた笑いが出てしまった。
成程。この高校の新聞部ってこんなイケ好かない所だったのか。良い勉強になった。
「勿論お断りします。今後二度と俺と月坂先輩に関わらないで貰いたいですね」
「それが最終結論でいいのか?」
「ええ。そりゃもう」
こんな取引に応じる訳にはいかない。あとやり口が生理的に受け付けない。
……さっきからチラチラ見えてるんだよなあ。
『ドッキリ大成功』って書いてるクソ派手なプラカードを持って扉の隙間からチラチラこっちの様子を窺ってる姫廻と倉知さんが!
「そうか。わかった……よーし君合格!」
「あんたらは大不合格ですけどね!!」
その後、この茶番劇が演劇部に協力を仰いで行った『俺の人間性を試す為のドッキリ』と判明し、その上で大々的に混合ダブルスを取り上げて学校をあげて応援するよう盛り上げて行くというプランを提示されたが秒で断った。




