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ヒロインらしきものは去ったけどもうちょっとだけ続きます!  作者: 馬面
第1ゲーム:0-15

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第11話 フラストレーションの逃げ道

「……」


 慌ただしく教室を出て行った姫廻の後姿を、馬の被り物みたいなガンギマリの目で見つめている男がいる。


 近本理久。俺の数少ない友人……の筈なんだけど、今は正直こいつが何を考えてるのかよくわからない。さっきからずっと情緒変だし。


「な、なあ篠原」


 急に首だけ曲げてこっち向くなよ! 怖いんだって! 何なんだよ今日は! 恐怖の日もオカルト記念日もまだ先なんだって!


「今の姫廻の反応ってさ、やっぱそういうことだよな?」


「……どういうことだよ」


「だって俺に相談できないってそれもう俺が恋愛対象だからって言ってるようなもんじゃん! そりゃ当事者には相談できないもんな!」


 ……何その強引な解釈。単にお前が信頼されてないだけじゃね?


「なあ匠」


「急に名前呼ぶなよ。何?」


「俺の顔ってさ、悪くないよな?」


 ……よく真面目な顔でこんなこと聞けるな。正気とは思えない。


「まあそりゃ整ってるからな。誰だっけ、映画にもなった刑事ドラマに出てた俳優。あの人に似てるよな」


「そうそう、柔道の大会でオッサンやオバサンと話す時にそれマジで言われる。そいつメチャクチャ人気だったんだろ?」


 母さんの話では、一時期日本で一番人気の俳優だったらしい。その人に似てるんだから、悪くないどころの話じゃない。


 けど、やっぱ濃すぎるというか……キャーキャー言われてるアイドルとは明らかに違う。だからイケメンかと言われると……どうなんだろ。


「その所為でずっと『昔の俳優顔』とか『ハンサム(笑)』とか『男前(笑)』とか言われてきたけどさ……俺、もうモテてもいいよな? 幸せになってもいいよな?」


「ああ、うん。なっていいんじゃないかな」


「いやったああああああああ!! ついに春が来たああああああああ!!」 


 とっくに春だよ。今4月下旬だぞ。


 でも確かに、そういう解釈もできるっちゃできる。何せあいつ今、気になる男子がいるんだもんな。


 それが理久だってことになるのか?


 わざわざ昼休みに隣のクラスに来たのも、理久と絡むためだった……?


「ンな訳ねーじゃん。こはるん、そんな趣味悪くないって」


 呆れた様子で呟くリオが、ジト目のままこっちに顔を寄せてくる。


 姫廻もどうせならこいつに相談すりゃいいのに。俺より絶対適任だろ。三度のメシや二度寝より恋バナ好きなんだし。


「テニス続けるかどうかの相談、こはるんにしてみれば? ウチらより真面目に答えてくれそうじゃん?」


「……確かに」


 今日中に去就を決めなきゃいけない訳でもないし、向こうもこっちに相談するんだから負い目を感じる必要もなし。最適な相談相手かもしれない。


「ナイスアドバイス。ありがとうリオ」


「まーね。あの色ボケとは人間力が違うんよ人間力が」


 ずっと興奮状態のまま机を受け身の要領でバシバシ叩いている理久を眺めながら、リオは今年一番のドヤ顔で微笑んでみせた。


 とはいえ、相談って苦手なんだよな。するのもされるのも。何しろそういうのは全部、夢芽が担ってくれていたからな。つまり自分でなんとかしてきたってことなんだけど。


 俺自身、聞き上手とは真逆の性格だし基本悩みとか愚痴って汚物だと思ってるから、それを他人に晒すような真似は極力したくない。でも、今回ばかりはそうも言っていられない。俺一人だけの問題じゃなくなったからな。


 とりあえず姫廻にはLINEで『そっちの相談に乗るからこっちの相談にも乗って』と伝えておこう。部活終わる頃には返答も来てるだろう。


 そういう段取りになったことで、今すぐ辞めるって選択肢はなくなった。問題の先送りでしかないけど、ちょっと肩の荷が下りた気分になったのは事実だ。


 色々あり過ぎて脳が疲れっぱなしだし、今日はこれ以上アレコレ考えずに部活に没頭するか。





「おう篠原、ちょっと来い」


 ――――なんてことを考えていた矢先、キャプテンから不穏なお呼びがかかった。


 ああもう嫌な予感しかしない。もし『月坂先輩から断りの連絡があった』って話だったら……一応それでも一件落着なんだけど、正直スッキリはしないよな。結構傷付くかもしれない。たとえ下心はなくても。


「お前、もう全体練習参加しなくていいぞ」


 ……それは想定してませんでした。


 え、お払い箱ってこと? 要らない子扱い?


「あー、なんか誤解させちまったか。混合ダブルスなんて初めてなんだろ? そっちを優先させて良いぞって意味な」


 ……なんだ。ビックリした。


 そりゃ辞めようと思ってるくらいだからキャプテンの目にも今の俺にモチベーションがないのは明白だろうし、戦力外通告出されたかと一瞬本気で思っちゃったよ。幾らエンジョイ勢の部活でもやる気ない一年は邪魔なだけだろうしな……


「ありがとうございます。それじゃ御言葉に甘えさせて頂きます」


「堅ぇな! 真面目君かよ!」


「……どうも」


 自分が特別真面目だとは思わない。けど、真面目であることを揶揄されるのは余り気持ちの良いことじゃない。


 ま、キャプテンだって悪気があって言った訳じゃないんだろうし、自分の価値観と違う相手に対して不快に思うのは驕りだ。切り替えよう。


 月坂先輩は……


 あ、いた。なんかコートの隅でポツンと立ち尽くしている。相変わらずの孤立状態。傍目にも部内で浮いているのがヒシヒシと伝わってくるな。


 今まで女子のソフトテニス部を真剣に観察したことなんてなかったから気付かなかったけど……マジで月坂先輩の周囲だけなんか空気が違う。他の部員が近付かないどころか、動線すら存在しないって感じがする。


 この浮きっぷりは相当だ。同じ一年となら会話くらいは普通にする俺の方が全然マシ。表現は悪いけど、なんか腫れ物扱いって印象さえ受けてしまう。


 ただ容姿がズバ抜けてるってだけならこうはならない……筈。そして多分イジメとかそういう類のものでもない。それならもっと周囲の視線が陰湿なものになる。


 先輩本人が下手だと言っていたように、他の部員と技量面で相当な差があるんだろう。


 こんな状況でも辞めずに続けているのか。


 何か辞められない理由でもあるんだろうか?


 それとも……


 いや、勝手に想像するのはやめておこう。どういう理屈を捏ねたところで失礼だ。


 それに今の俺は立場上、直接話しかけることだってできる。会話の流れでそれとなく探ってみるしかないか。


 とはいえ――――女子の先輩に自分から声掛けるのってキツいよなあ。変に注目浴びても嫌だし。


 でも多分、月坂先輩の方から話しかけて来ることはない気がする。まだほとんど交流はないけど、自分でコミュニケーションが苦手って言ってたし。

 

 ……仕方ない。ここは勇気の使い所だ。


「月坂先輩」


 意を決して話しかけると、イマイチ感情の読めない顔でこっちに目線が向いた。ま、拒絶されていないのを今は素直に喜ぼう。


「俺、暫く全体練習には出なくていいそうです。混合ダブルスの方に時間を使えとの主将命令が出たんで」


「私も好きにしていいって先生から言われてる」


 俺と同じように不本意だったのか、どう扱われようとどうでもいいのか……先輩の表情から真意を窺うことはできない。


 でも――――



『私がいなくても、何も変わらないから』

『私、下手だから。誰も組みたがらないと思う』



 昨日の発言には、少なからず悔しさが滲んでいたような気がする。じゃなきゃこんなことを初対面の俺に言わないよな。


 もし先輩の中に見返したいって気持ちが少しでもあるのなら……俺はそれを手助けすべきなんだろうか。


 月坂先輩を、ソフトテニスを続ける理由にしてしまってもいいんだろうか。


 まだ自分の本心は見えない。なんのきっかけもないから。


 直感や閃きなんてのは俺にはない。取っ掛かりになる何かがなければ何も生み出せない。


 だったら……踏み出すしかない。


「ちょっと公園で打ちませんか?」


 俺の突然の申し出に、先輩は少しだけ驚いたような表情を浮かべた。






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