第10話 高嶺の花
リオの言うことはわかる。俺だって別に恋愛を嫌がってる訳じゃない。恋人なんて面倒なだけで必要ないって言えるほどの経験をした訳じゃあるまいし、普通に欲しいしイチャイチャもしたい。
とはいえ勿論、誰でも良いって訳じゃない。俺にも好みってものはある。自分の好きな異性の容姿もそれなりに固まっている。その点で言えば、月坂先輩は文句なしのスイートスポット。ど真ん中だ。
でも恋愛対象となると話は全然違ってくる。俺のイメージする恋人ってのは、自分と同じステージに立っている人。ファンクラブまで存在するという月坂先輩は俺とは明らかにステージが違う。
それに――――
「……ソフトテニスってさ、競技人口それなりに多いんだよ。部活ある学校結構多いし。多分日本だけで何十万人っているんじゃなかったっけ」
「え? 急に何の話?」
「そこで二人に質問。国内にプロの選手って何人くらいいると思う?」
双子らしく同時に顔を見合わせて、暫く考え込む。
「まあそりゃ、流石に硬式とは全然違うってのは想像できるけど……それでも一〇〇人くらいはいるんじゃねーの?」
「いやいや理久わかってないね。こういう質問って予想より少ないもんだって。ってかゼロじゃね? ソフトテニスのプロなんて聞いたことないもん」
リオ、結構鋭い。
実際、ソフトテニスのプロプレーヤーが誕生したのは数年前。当然プロリーグなんてのも存在しないしオリンピック競技でもない。四年に一度開催される世界ソフトテニス選手権大会にしたって、硬式の四大大会とは規模も知名度も比べ物にならない。
「ちなみに正解は一〇人ちょい。これでもオリンピック競技のバドミントンより多い……かもしれない」
「なんで曖昧なんだよ」
「プロ選手の数を正確に把握できないくらいマイナーってことだよ」
中学生の人気部活動ランキングではトップ五に入るくらいの競技なのに、大人になる頃には大半が硬式プレーヤーになっている。ソフトボールと野球の関係に近いのかもしれない。
でもソフトボールは女子に限って言えばしっかりしたリーグも存在しているしオリンピック競技でもある。
高校卒業後にも先がある。
「ソフトテニスは、先がないんだよ。趣味にはできても生活の柱にはできない」
そういう切実な理由がある以上、真剣に取り組めるのは実質高校が最後――――と俺は思っている。
「だから、辞めるにしても後悔しないように……って思ってんの。今は恋だの愛だの言ってる場合じゃないんだよ」
堅苦しい話にしてしまった罪悪感はあるけど、これで俺の言いたいことは伝わっただろう。
「またまた~。それこそ恋人同士でペア組めたら最高の思い出になるじゃん? 高校時代を思い出しながら、あの時の練習着を着て……みたいな?」
「……着地が下ネタかよ」
真面目に話して損した。まあこの双子に真面目な相談するこっちが馬鹿だったんだけど。
それだけ俺も追い詰められてるってことだな。
「何なに? 何の話してるのー?」
突拍子もなく姫廻が話に割り込んできた。
……いや、なんでいるんだ? お前三組だろ? ここ二組なんだけど?
「姫廻! うぇーい!」
「うーぇーい!」
そして二組の誇る陽キャ軍の皆様と謎のハイタッチ。ああ、姫廻って感じだ。中学の頃からこういうノリで男子と接してるの何度も見た。そしてその度に『俺って特別でもなんでもないんだな』と学習させられたっけ。そういう所は天和と似ている。
けどこいつと天和の決定的な違いは、あざとさ。姫廻の場合はわざとらしく可愛らしく振る舞う素振りが一切ない。常に自然体で明るく、軽やかに人生を謳歌している。
そりゃ人間だし、表もあれば裏もあるんだろう。俺が見ている姫廻がそうってだけで、実際の人間性までは断定できない。もしかしたら努力してそう振る舞っているだけで本当は暗い性格かもしれない。
ただ、仮にそうでも姫廻は自己演出でそんな真似はしないと思う。そう思わせるような屈託のなさを感じるのは、天和と接してあざとさに免疫があるからなんだろうな。
俺としては、どっちが良いとか悪いとかは一切ない。姫廻も天和もそれぞれの良さがある。まあ、こっちのコンディションによってはこの明るさが時々鬱陶しく感じることもあるけど。
「リオもうーぇーい!」
「うぇーいこはるーん! やー、このタクちゃんが色ボケしちまってさー。月坂先輩って二年の超美人知ってるでしょ? その人とペア組むことになってー」
「まだなってねーから」
なんでゴシップ好きって不確定情報を断定気味に喋るんだろうな……
「……は?」
え、なんで姫廻キレ顔で寄ってくんの? 怖いんだけど……
「私の恋愛相談乗ってくれるんじゃなかったの? そんなロミジュリの一〇〇〇倍無理めな恋愛しといて他人の恋愛に口挟める? 挟めないよね?」
喋ったらもっと怖い……姫廻ってこんな怖い一面あったのかよ。普段と雰囲気違い過ぎてヤバいんだけど……
まさか本当に根っこは暗い奴なのか? いやいや、そんなベタな。ないない。ないからその顔やめて怖い。
「ま、まあまあ。こいつ昨日三連コンボでフラれちゃったのが相当ショックなんだよ。早く次の恋見つけたくて必死なんだって」
「いや一つもフラれてねーのよ」
理久、お前そういうとこだぞ。偽証でフォローされても余計な誤解招くだけなんだよ。
「……どういうこと? 篠原、一日で三人に告白したの? それで全員にフラれたの? 行動力と頭ヤバくない?」
案の定、姫廻はドン引きしている。そりゃそうだ。赤い頭のリバウンド王ですら三年で五〇人だぞ? 二〇倍以上のペースじゃねーか。
そもそも、その中の一人は姫廻なんだけどな。いやフラれてねーけど。
「なあ姫廻さん、こいつなんかに恋愛相談するくらいならさ、俺じゃダメか? 俺ならいつでも空いてっから」
そんでドサクサに紛れて自分を売り込みやがった!
こいつ、柔道でも攻撃一辺倒なんだよな……だから強い割に結構ポカもする。返し技にやたら弱い。
「あー……近本君に相談はちょっと無理かも。だって……ねえ?」
さっきの俺に対するキレ顔から一転、姫廻が照れた様子で困っている。
「と、とにかく! そろそろ本格的に相談したいんだから、ちゃんと時間作って! それじゃ!」
そして逃げるように教室を出て行った。
なんだったんだ一体……




