31.1人になって
護衛達ほどの覚悟を決めたわけではない。
しかし、緊張をしていないわけでもない。
制圧されている場所へと近づいて行くにつれ心拍数は上昇し、自分の鼓動をうるさいと感じてしまいそう。
ただ、それでもその緊張が余計に私の気持ちを焦らせないのはやはり周囲の焦りや緊張の方がよほど大きいからだと思う。さすがに周囲が焦っていれば落ち着けるとかいう簡単なことではないけど、爆発的な緊張がもたらされることもない。
ただ、1人で黙って待っていると護衛への気遣いが足りない聖女らしさに欠ける過ごし方になってしまうから特に緊張している護衛に向かって話しかけておき、
「魔族が具体的にどういった戦い方をするのかご存知ですか?」
「ま、ままま、魔族はですね!あ、あの、そのえぇっと、魔法を使うと聞いたことがあります」
「なるほど。魔法ですか。具体的にはどのような?」
「それはその、ですから…………」
キョドっているけど、質問に答えていく間は恐怖以外の事に頭を変えられる。だんだんと答えていくうちに言いよどむ回数と思考の時間が減り、焦った様子こそ変わらない物の顔の青白さは少し減って行った。
しかし、道中でどれだけそうしたケアをしたとしても結局のところ最終的な精神状態にかかわってくるのは実際に到着した後になる。
私との会話で多少は恐怖が緩和されたかと思っていたけど今度は魔族の制圧した地域に近づくごとにその戦闘の跡などから相手の強さを感じ取ってまた顔色が悪くなっていき、
「見えました!魔族です!」
「では、ここで結界を張りましょうか。指定された範囲内にまだ魔族が侵入していなければよいのですけど」
ついに小さくではあるけど目視で魔族の姿を確認することが可能なまでの距離に来た。
ここからが本番と言って良い。
私は即座に屑王子から言われた通り国全体と言って良いほどの広さを結界で覆う。今までで1番リソースを使ったからか強い疲労感が体を襲ってきた。
それを即座に前の世界で手に入れた方の魔法の力で無理やり回復して、こちらに気づいた魔族と結界を挟んで対峙する。
私がかなりの力を見せたわけなんだけど、それでも近づいて来る魔族の表情はそこまで険しい物ではない。
さすがに余裕の笑みは浮かんでいないけど、緊迫感があるというほどでもないんだよね。微妙に侮られているようでむかつくけど、何が何でもこちらを倒そうとしてくる雰囲気になるよりはマシかな。
そして何よりここでラッキーだと感じたのは、
「どうやら魔族ではない何かも混じっているみたいですね。あれは、人でしょうか?」
「人が魔族に与しているというのですか!?」
「すでに魔族は支配者の側として一定の成功は収めているというわけですか」
「協力的な人間がいるならばこちらの地形などの情報も既に知られてしまっている可能性が高いでしょうか」
「人質である場合の方が幸せだというのは何とも嫌な話ですな」
一緒に人間がついてきている。そしてその人間には、一切この世界における力を感じない。
そう。つまりその人は、森に追放された人だという事!
魔族と推定主人公さん達の関係は上下関係ではなさそうだったし、こうして一緒に行動することを考えればそれなりに強いつながりがあるのではないかと考えられる。
これは私にとってうれしい事だね。
魔族がどういう気質なのかは分からないけど、もし私と魔族の相性が悪くてもそちらの人間の方と交渉ができる。さすがに私が嫌われているという事はないだろうし、協調路線に持って行きやすいだろうと思うんだよね。
となると、
「この数が相手となると、皆さんには離れてもらった方がいいかもしれませんね」
「なっ!?聖女様!?」
「私たちは護衛です!たとえこの命が果てようともお守りします!!」
「皆さんには、この魔族の行動を見て観察結果を殿下などに届けていただきたいのです。私なら抑え込むことはできるかもしれませんが、それがいつまでできるかは分かりませんから。それに、しばらく近くに魔族が留まるようであれば私からも少し仕掛けます。その時に皆さんを巻き込んでしまうのは本意ではありません」
「聖女様…………」
「そこまでおっしゃられるのでしたら」
「必ずや殿下に報告をし、聖女様のご支援ができるよう役立ってみせます!」
「あまり気負わなくとも構わないのですが、よろしくお願いしますね」
護衛を途中で逃がす算段もつけたから、私の内通も発覚するリスクは低くなる。
それから魔族が私の張った結界に対応し始めるまでそう時間はかからず、護衛が顔を青くするような魔法や攻撃が次々と襲い掛かってきた。
結界越しに見てもそれは背筋が凍るほどには高威力で範囲も広い物であり、
「皆さん。これをよく見ておいてください。ここまで見やすくするのは、そう長い時間できることではないので」
「かしこまりました!」
「聖女様のお気遣いを無駄にはしません!!」
さらに護衛を引きはがすまでの時間を短縮できるように適当な言葉を口にする。
そしてきっかり1分。
結界に対する攻撃を私たちは眺め続けた後にすこし結界の方に細工をさせてもらって、透明だったそれを色つきの向こう側の見えない物へと変化させる。
「さて。ここが限界ですね。行ってください」
「ハッ!ご武運を!」
もういても意味がないからと護衛を送り出す。
未練はありそうだったものの、それ以上に私を犠牲にするわけにはいかないと護衛達は速度を上げてすぐに見えない場所まで移動していく。
こうして私は1人になった。
「やっと自由になれたね。まずは、攻撃が間違って飛んできても嫌だし押さえつけさせてもらおうかな」
私は目の前にある魔法の壁を通り抜けて魔族の方へと足を進める。
そうすると向こうも私に気が付きその動きは変わって、
「自分から結界を超えてくるとは、ずいぶんと自信があるようだな!」
「ただ堅い壁が作れるだけの人間がわざわざ出てくるとは!」
「自分の実力を勘違いでもしたか!」
攻撃をし続けていたからかもしれないけど、やってくるのはなかなかに好戦的な声。
唯一追放された人だけは距離を取って攻撃からは外れたけど、やはりこの魔族をどうにかしないとマズいと思う。
という事で、やることは簡単だけどそれなりに効果が出るだろうやり方で対処させてもらって、
「聖女パンチッ!!」
「「「グワアアアァァァァァ!!!????」」」




