30.あまり印象の良くない
「…………ん?」
「どうかされましたか聖女様?」
「いえ。少し変な気配を感じて。しかし、気のせいだと思います」
「さようですか?しかし、聖女様の勘が間違っているとも思いにくいですが」
「ふふっ。そんなことはありませんよ」
気のせいだろうとごまかす私。
しかし、実際感覚的に変だと思ったわけではないから嘘は言っていない。
おかしいと感じたのは、感じたものではなく見た者。今、貴族から呼び出されて回復魔法をかけた後の帰りの場所の中で遠くを見ていた私は、変なものを見つけてしまったの。
遠く、具体的に言うと推定主人公さんがいる森の方から影が視えた。
そこまでは良かったんだけど、視えた中にいた存在が私の予想を裏切ってきたの。
てっきり推定主人公さんとその他の今まで追放されてきた人たちくらいしか今回行動を起こすことはないだろうと思っていたんだけど、
「あれ、魔族だよね?」
森に魔族がいるという話は聞いてた。確かに原作展開に関わりそうだなぁとも思っていた。
でも、一緒に外に出てくるのは予想外なんだけど!?もしかして推定主人公さんが主役になる話って、追放先の魔族が世界を征服するような話だったりするの!?
とはいえ、想定とは違うけどたぶん大丈夫だよね?そこまで大きな問題にはならないはず…………だよね?
懸念があるとすれば、単純に私が魔族に対して警戒をしているというだけ。前の世界で最終的に私をかなり一方的な理由で元の世界に送り戻したのが魔王だったから、その影響で魔族全体に対して何をしでかすか分からないという印象を持っているだけ。
「今回は特に嫌われるような要素もないはずだし…………問題ない、よね?」
前の世界と違って、関係修復に奔走するようなこともしなかった。というか、できなかった。
だから前回のような邪魔をしたというような認識をされることもないと思うの。
という事で私の身の安全は保障される…………と思いたいところだけど、どこまで油断して良い物やら。前の世界の印象が強すぎて全く警戒が解けないよ。
ただ、魔族が推定主人公さんの味方であることは決して悪い事ではない。
推定主人公さん達は直線的に王都へと向かってくるわけではなくいくつか主要な都市らしき場所を経由して移動しているんだけど、
「せ、聖女様!大変です!魔族が急に現れて都市を支配しているとのことです!」
私が行動の開始を確認してから数時間。
やっと報告が来た頃には、既に複数の地域が推定主人公さんの陣営に制圧されていた。
「都市を支配ですか?都市と言うからにはそれなりに発展していて防衛能力も高いんですよね?」
「は、はい。しかし、魔族にはかすり傷一つつけることが叶わなかったようで」
「それほどまでに魔族には力があるのですね」
この報告は間違っていない。私も確認したけど、魔族と人間の戦力差は圧倒的だった。
なぜ今まで不便な森で静かに暮らしていたのかさっぱり分からないほどその力は強大。腕を一振りするだけで城壁が崩れ落ちて、軽く魔法を唱えるだけで100人以上の兵士を一瞬で眠らせて見せた。
そんな単体でも恐ろしいほどの力を持っている魔族が集団で攻めてきたんだから、どうしようもない状況になっていることは理解できる。
もちろん私としては好都合なわけだけどね。
ただ、国としては相当焦っているようで私にもすぐに招集命令(形としてはお願いだけど)が来て、
「どうされましたか?魔族の件で何か私にお仕事が?」
「は、はい。このようなことを聖女様にお願いすることは大変心苦しいのですが。というより私個人としてはこのようなことをお任せしたくはないのですが…………」
苦々しい表情をした屑王子。
その口ぶりからは、本当に私に仕事をさせたくないのだろうという事が読み取れる。
理由は勿論明白で、都市とかよりもよほど聖女が大事だから。聖女を国が保有することにより得られる力と言うのはどうやら下手な小国の領土を持っているよりよほど大きなものらしく、私には危険なことはさせたくないという考えみたい。
もちろん、私自身を狙っているという事も理由にはなるのだろうけど。
ただそうした理由があっても私に頼まなければならないというのは魔族が強力であると同時に私にしかできないことがあるからであり、
「聖女様には、結界を貼り魔族たちをこれ以上進ませないようにして頂きたいのです」
「結界ですか。どれほどの規模を想定されていますか?」
「そうですね…………できれば、魔族に支配されていない我が国の領土全て、でしょうか」
「…………できなくはないかもしれません。これまで鍛え上げ、そして罪人の方々から力もいただいてきましたのでそれくらいの力は残っています。しかし、場合によっては私が前線の近くに出なければならないかもしれません」
「やはり、そうなりますか?」
「はい。距離が空くと結界の強度の向上も難しいので」
実際のところはそれほどでもないけど、そういうことにさせてもらう。
役割上私が結界を張って国を守ろうとする動きをすることは避けられないことなんだけど、だからと言ってその役割を十全に果たしてしまえば完全な敵対ルートに入ってしまう。
ということで、いっそのこと近くに行って打ち合わせとかができたらいいなと言う考えなわけ。
もちろんこれにもリスクはある。
そもそも私の事を向こうが味方として認識しているか分からないし、推定主人公さん達には味方だと思われていたとしても魔族にまでそう認識されているかどうかは不明。
攻撃の対象となってしまう可能性も考えられるの。
「もしもの時のために身代わり用のアイテムはできる限り持って行きますね」
「ええ。そうしてください。後は、耐性上昇系のアクセサリーもできる限りお願いしたく」
護衛の人達と一緒につけていく装備を決めていく。
聖女であるからかなりいい装備を支給してもらえて、私の防御能力がかなり向上した。装備だよりと言うのは悲しいところではあるけど、こういう時に手に入れられるものは手に入れておきたいよね。
国を滅ぼした後に推定主人公さん達から返還を要求されるなんてこともないはずだし。
「では、あまり時間をかけるのも良くありませんしそろそろ行きましょうか」
「「「「…………はい」」」」
護衛の人達は皆覚悟を決めた表情になる。
さすがに子供や孫もいるし私にもなついていたから護衛の命が危うくなることは避けるつもりだけど、さすがに今それを言うわけにもいかないし覚悟は決めたままでいてもらうことにしよう。
私にできることはやった。
後は推定主人公さん達が私をどう考えるかだけ。
物語の山場も近い。




