23:腐りすぎて発酵してそう
「あのような者達が聖女様に近づけるなどと勘違いしては困りますからなぁ」
いかにも人のよさそうなおじいさんと言う見た目の人が、一切悪びれた様子もなくこんなことを言ってくる。完全に、一般の人に価値を感じていない様子。
見下すのはまだいいんだけど、私が治療行為をする事すらふさいでくるのは本当に勘弁してもらいたい。
実際に私に治療をもとめようとしたらしい人が着られるか何かして叫ぶ声が先ほど聞こえてきたし、不快感と不安がひどくてたまらないよ。
「いえ。そういうわけにはいきません。困っている方がいるのにそれを無視するというのは聖女としてあってはならないことですから。それが力を使う責任と言うものです」
「ふむ。力など好きにお使いになればいいと思うのですがな」
「いえ。私の力はそういうものですから」
「そうですか。そういわれればお止めするわけにもいきませんな」
納得した様子を見せる貴族。
ただ、油断してはならない。何を向こうが考えているかくらいは分かるんだよ。
向こうが考えていることは、聖女様が無理をするならばけが人をまとめて全員処分してしまおう、と言うものだね!
この世界の貴族皆と言うわけではないけど、たいてい同じようなことを考えるから私ももう何となく予想できるようになっちゃってるよ。
ちゃんと止められるような言葉も口にしておかないと。
「もし私が救える命を無視するようなことがあれば。そして、ないとは思いますが私の影響で多くの方が命を落とすようなことがあれば。きっとこの力に私はふさわしくないものとみなされてしまうでしょう。私が力を使えなくなるだけならまだいいですが、下手をすれば国全体に不幸が降りかかることすらあり得てしまいますね」
「っ!?さ、左様ですか。ではぜひあの汚らしい愚民をお救い下さい」
「はい。そうします」
一瞬で相手の表情が変わった。国全体に不幸が降りかかるとか、自分にも危険があると言われたらあっさりこの人たちは引いてくれるんだよね。ただただ自分が大事と言うような人達だから。
性質は理解できたから、多少は対応できるようになってきた。
でも、いつまでもこの人たちに付き合わなきゃいけないのは嫌だな~。推定主人公さんが早々に排除してくれるのを待つか、貴族と関わらなくてもいい体制を作らないといけないよね。
ただ、理想はそんな感じなんだけど、
「そういえば、王子が聖女様にお会いしたいとおっしゃっておりましたよ」
「あら。そうなのですか?ではまた折を見てお伺いしてみます」
まず1番関わらいたくない王子がと会わなければならなくなっている。
以前聖女として男性とお付き合いするとか結婚とかは難しいという話をしたけど、それでも定期的に面会を求められるんだよね。そして毎回結婚は可能かどうか尋ねてくる。
ただそれが恋愛と言うより欲が強く出たことによる発言であるのは非常に分かりやすく、この間なんて結婚は無理でも子供だけでも作れないかと言われてしまった。
さすがに気持ち悪すぎてドン引きしたね。もちろん丁重にお断りさせてもらったけど。
そして、そうした王子の下心以外にも私が呆れている要素は存在する。
その中の1つが、
「しかし、殿下は婚約者の方々と仲良く過ごしていらっしゃると聞いていましたが。私を呼ぶという事はどなたか体調が悪くなられたりしたのでしょうか?」
「そこまでは私にはさっぱり。しかし、殿下は聖女様に会いたいと思われているはずですよ。王子と聖女様はお似合いですし、私どももうれしいばかりです」
「ふふっ。わたしはまだまだ未熟なのですけどね」
なんと、私が結婚などの話を断ったら新しく婚約者を作りやがった。しかも複数人。
そして婚約しただけであるというのならまだ王子としての役割上仕方のないことという風に考えることもできるのかもしれないけど、そのほとんどは顔採用や体採用で身分や家の重要度も大したことがない子も多いんだとか。
そして、毎日のようにその婚約者の子たちと遊び倒しておぼれているらしい。
この話を聞いたときは私も耳を疑ったね。
仮にも私に結婚の申し込みをしておいて、そちらへの配慮もなく(王子たち側からすると正妻の座は明けてるからものすごく配慮しまくっているんだよと言う主張はしている)新しい相手をたくさん作って遊び惚けてますとか最悪にもほどがあるでしょ。
やはり屑王子で間違いないみたい。
たぶんこういうところをとがめるなりした結果推定主人公さんは力を奪われた挙句追放と言う形になってしまったんだろうね。
「私といたしましては王子の婚約者の中でも仲良くしておくことをおすすめしたいものが降りましてな」
「そうなんですか?機会があればお話ししてみますね」
こうした王子の暴れっぷりを、貴族たちは特に気にする様子はない。
もちろん中には私の前でだけ批判した人はいたけど、その人は結局私を使って成り上がって国のトップになりたいという考えが透けて見えてたのでお断りさせてもらった。
あれでまともな領地運営をしている人ならまだ良かったんだけど、あの人はあの人で奴隷とかを大量に購入して好き勝手遊んだりしてたからなぁ。領地の治安も割と最悪だし全く領地が潤っている様子はなかったから、協力する気にもなれなったよ。
そして、批判をしない貴族のほとんどはその婚約者になった子たちの後見になるなどして誰が婚約者内で1番になるのかという事を争っている。
婚約者同士で嫌味を言い会うのは当たり前で、暗殺者を送り込んだり毒を盛ったり。
挙句の果てには屑王子との子どもさえ作ってしまえば勝ちだと考えたのか、媚薬を盛り自分も媚薬を飲み朝から晩までとんでもないことをしたという事件まで起きている。
「そういえば婚約者の方が1人お怪我をされたと聞きましたが」
「ああ。そういえばそんな話もありましたな。とはいえ、大したものではないでしょうし聖女様が気にかける必要はありませんとも」
もちろんそこまで派手にやればけが人も出て、1人すでに大けがを負ったという話を聞いている。何でも、ベランダから転落したらしい。
ただ公表されている事例がそれだけで、けが人やこの世から去ってしまった人ももっといっぱいいるんじゃないかと言う風に私は予想しているよ。
今でも私が正妻の座に座るという話になってしまっているから私を味方につけようと躍起になっている人が大勢いるし、これで本当に屑王子と結婚なんてしようものならどんな目に合うか分かったものではない。
そう言う理由も含めて、私は絶対屑王子と結婚なんてしたくはないね。
どちらかと言えばこの世から抹消したいくらいだよ。
早く、推定主人公さんはこの国を攻め滅ぼしに来てくれないかなぁ。
私はそんな気持ちで、今日も貴族とそれに虐げられる人々をバランスを取りながら治療していく。
ただただ私の人脈や支持の高まりと、確かな魔法の腕の向上だけを伴いながら。




