22:寄ってくんな~!
「これで、私のお仕事は終わり、ということでしょうか?」
「ハハッ。申し訳ないのですが、まだ聖女様には手を貸していただきたい事柄が多くあるのです」
推定主人公さんに苦痛を与えるなんて言うとんでもないことをした私は、一応期待をしながらこれで帰らせてくれないかなと希望を述べてみた。けど、その返答は首を横に振るという否定。
否定してきたのは屑王子で、その後の展開がまたひどく、
「ただ、お願いの前に1つ言いたいことが」
「はい?何でしょう?」
「私は多くの民を、そしてこの世界の多くの者を救いたい。しかし、そのためには私だけの力では成し遂げられません。どうか私と共に世界を救っていただきたい」
「は、はぁ。困っている人がいるというのならお手伝いはしますが」
「ありがとうございます。それではまずは、私との結婚から」
なんで!?
いや、この屑王子の事だからなんとなく予想はしてたけど、やっぱりこうなるんだという気持ち。ものすごく下心が丸見えで、世界を救うためとかいう気持ちなんてなさそうなのが丸わかりなんだよね。
ただ、当然素直にそんなことを口にするわけにはいかない。こんなまごうことなき屑でも国のトップの方の人間で、そして私の相手役になりそうなのは間違いないわけだし、素直に言ったら私がどうなるかなんてわかったものではない。それじゃあ推定主人公さんを見捨てた意味がないわけだよ。
だから、穏便に。
当たり障りがなくどちらかと言えば屑王子を気遣い寄り添うぐらいのつもりで、
「その心意気は大変すばらしく思います。感動しました。しかし、実は私はこの力を操るにあたりしばらく清い身で、そしてまずは自分の事よりも他者の事を優先しなければならないという風に言われているように感じるのです。そうでなければ、この能力は衰え消え去ってしまうとでも言われているようでして」
「なんと!?そうなのですか!?」
そんなわけないじゃん。嘘だよ。嘘。
とは言っても、私の話が嘘かどうかなんて分かり様もないはず。今までの人が違ったという事だったとしても私の場合はまだ精神が未熟だからなんて言い訳をすればいいし、私の聖女の力が失われては困るだろう国の人としては諦めるほかないはず。
「かしこまりました。ではいつか、その時が来たら結婚のほどを」
「ええ。いつか私が認められ許される日を待っております」
まあ、私が許さないからそんな日は来ないんだけどね!絶対来ない結婚相手を待って1人で寂しくしてな!
もし途中でどうしても結婚したいとか言って押しかけてきたら全力のグーパンチを顔面にお見舞いしてやるんだから。
とは思いつつも、そうした気持ちはおくびにも出さず微笑んで応えておく。まるで、私もあなたと結婚したいですよとすら受け取られそうな表情で。
屑王子以外もそれで勘違いしてくれそうだし、特にこれから結婚なり婚約なりの話がくることはないでしょ。煩わしい要素は減ったと考えて良いんじゃないかな?
きっと、数年後には推定主人公さんが屑王子含めて全員処分しているだろうし!
「それと、もし私のお世話などをしてくださる方をご用意いただけるのでしたら、そうした理由もあって女性の方にお願いしたいのですが」
「かしこまりました…………とは言いまして、女の兵士と言うのは数が少なく手ですね。世話係は兎も角護衛の方はどうしても男になってしまうと思うのですが」
「そうなのですか?では、出来ればお年を召してそうした関係になりそうにない方や、愛妻家で有名な方などでお願いします」
「分かりました。それでしたら何とかなるかもしれません」
ついでにイケメンで私を釣るという方向性も避けられるようにしておく。私の好みドンピシャな人を用意できるとは思えないけど、もし本当に居たら愛のせいで推定主人公さんと正面衝突することになりかねないしリスクは減らさせてもらいたい。
ということで自分から出会いの機会を手放してしまった私だけど、その後はこれからの生活のことなど説明を受けさせてもらった。
内容としては、人を回復したり一部に結界を張ったりなど基本的には前の世界とそこまで聖女としての働きに関しては違いがない。
ただ、学園に入学さするとかそういう話は出てないね。頼んでおいたからこの世界の魔法を使うための先生と教本などは用意してもらえるようだけど、言わなかったら力の使い方を学ぶなんて言う機会すらなかったんじゃないかな?
どうやら基本的に私の力は最初から使えるもので学ぶ必要はあまりないという認識みたいだし。
「聖女様。本日は少し遠くの街で治療をしていただく予定となっております」
「分かりました。では、その治療の前後で一般の方々の治療も無償で出来る機会を作っておいていただけますか?足を運ぶのでしたらまとめて周辺の方々の問題を解決してしまいたいので」
「かしこまりました」
この世界で1週間という概念はどうやら存在しないようだけど、とりあえず週に2回と言うペースで私は遠出もすることになっている。どこにでも病人やけが人はいるから、国のあちこちを回って治療をしているわけだね。
ただ、当然ながらそうした際に対象となるのは貴族だけ。最初の頃に伝えられた通りの行動をしたら遠くまで行って貴族1人を治療して戻ってくるという事になってしまったから、一般の人達も治療する機会を作るようお願いしておいた。
どうやらこの国の貴族など身分が高い人達は民衆をわざわざ治療する価値を感じていない人が多いみたいなんだよね。それこそ民衆なんてどれだけ減ってもまた勝手に増えると思っているようで、時間の無駄だというようなことすら言っている時がある。
ただ、幸い私が一般の人を治したいという事は貴族たちの価値観からすれば意味を見出せないものではあるものの聖女らしいものではあるみたい。
「聖女様はお優しい事で」と嫌味とも取れそうなことは言いつつも最近は時間を作ってくれるようになった。あんまり長くもないし。治療できる人も数十人と言う程度だけどね。
「完全に排除する良い対象になってしまっている」
私は1人、馬車に揺られながらため息をつく。
物語の展開的に、こういうキャラは絶対にどこかのタイミングで排除されたりするものだからね。特に追放された後だとこういう傲慢な性格をした人たちが好き放題やって痛い目を見てなざまぁされる展開なんて有りがちだし。
私が巻き込まれないかとヒヤヒヤしているよ。
本当に私の立ち回りも、物語によってはざまぁ対象(そこまで悪い存在ではないけど立場を使って甘い汁を吸っているから巻き込まれてひどい目に合うパターンや、本当に悪い人じゃないのに悪い人達とひとくくりにされてザマァされるパターン)にもなるから、自分の身を守ったり民衆の人達にできるだけふれあいと治療をする機会を得られるようにはしている。
貴族などの権力者たちとのバランスをとるのは難しいけど、私の聖女と言う立場から通常よりはハードルを下げられているという様子。
ただもちろん人によってはひどいもので、それこそ今回私が治療に向かった家の人などは、
「おぉ~。かなり楽になりました。聖女様に深く感謝を申し上げます」
「いえいえ。良くなったならば何よりです」
「そうご謙遜なさらず。此度は歓待のための食事や劇団員も呼んでおりますので、どうぞごゆるりとお楽しみください。下民共の治療など必要ありませんからな。もし聖女様のお休みを邪魔するようなものがいれば、ケガもしているわけですし邪魔なのでその場で切り殺しますとも。あのような者達が聖女様に近づけるなどと勘違いしては困りますからなぁ」




