17:お前が全部間違ってる
「…………俺が、間違っていたのかもな」
「殿下?」
「俺は、安全な場所にお前がいてくれればそれでいいと思っていた。それこそがお前のためになると、お前の幸せにつながると思っていたんだ。だが、違うんだな?」
問いかけ。
しかし、それは確信めいたものの理解をすでに感じさせるものだった。
「トロエ。お前に殴られて、俺も目が覚めた。お前を誰かに幸せにしてもらうなんて言うのは嫌だ。俺がお前を幸せにしたい。だから、今更かもしれないが…………俺と、共に生きてくれないか?」
「っ!はい!!」
頷くトロエ。
その頬にすこし雫をつけながら、彼女は王子に駆け寄りそのまま口づけを交わす。
う~ん。
見せつけられてますな~。
私、完全に無視されちゃってるよ。いつ気付いてもらえるだろうね?
今も2人で熱い抱擁とキスを交わしてるし、完全に自分たちの世界に入り込まれてしまっている。
周囲の様子を探る限りまだ人が到着するまでに時間がかかりそうだから、人の気配で止まるっていうこともなさそうだね。
結局私が声をかけるのはそれから数分後の事で、
「あの~。そろそろ人が新しくやってきますので説明などの準備をされた方がよろしいかと」
「「っ!?聖女様!?」」
「本当に意識の外に置かれてたんですね。殿下が復帰する前からトロエさんとはお話をしていたというのに」
「そ、そういわれてみれば確かに」
「私たち、もしかしてずっと聖女様を無視していたってことですか!?」
「そうなりますね。わだかまりがなくなったことは嬉しく思いますが、それはそれとして複雑な気分でしたよ」
「す、すみません」
人の気配を感じたことでやっと止めることができた。
本当は私が声をかける前に私には気づいてほしかったけど、ダメだったね。あのままならあと1時間は自分たちの世界に浸れたんじゃないかな?
その後すぐに私が気配を感じていた人たちはやってきて、
「殿下!聖女様!ご無事ですか!」
「こ、この数はもしや皆様で!?」
「私は特に攻撃はしていませんよ。」
「すみません。私が1人でやりました!この人達にまで何かするつもりはなかったんですけど、どうして先に行かせてもらえなかったし私の邪魔をしてこられたので」
「は?おひとりで?」
「幻聴ですかな?」
地面に倒れ伏す人々を見て、私や王子も一緒に攻撃をしたのかと勘違いされてしまった。
人数からしても確かに1人でやったとは考えにくいから疑う気持ちはわかるんだけど、全力で否定させてもらう。
幸いなことにトロエちゃんが自分だけでやったと素直に証言してくれたため向こうも驚きはするけど私たちに対して警戒をするというのはやめてくれる。
ただ代わりに、トロエちゃんへの警戒度が大幅に上昇したけどね。
「もう落ち着かれたようですのでそこまで心配なさらずともいいと思いますよ」
「せ、聖女様がそうおっしゃるのであれば」
私は怖くないよ~大丈夫だよ~と言っておき。その警戒を下げさせる方向に動く。こうすることで、余計に私に対しての警戒度も低下させられるからね。
危ないのはトロエちゃんだけと言うのを更に強く認識させることもできるというとても保身につなげられる行動なんだよ。
ただ、そうした保身にまみれた行動の影響でも十分よかったようで、警戒はしつつもトロエちゃんの対応を始めてくれる。
幸い王子とのわだかまりが解けたからか暴れるようなこともなく、素直に向こうの指示に従ってくれた。
「ふふふっ。国が大慌てしておりましたわ」
「聖女様を外に逃がさないための監視役となる騎士がああも簡単に倒されてしまえばねぇ」
「あそこでヒトも一緒になっていたら恐ろしいことになったんじゃないかって噂になっているわよ」
「へぇ。トロエちゃんの強さはもう国の方で認識してると思ってたんだけど。あの時ではまだ浸透してなかったんだね?」
トロエちゃんの強さは国の想定を超えていたらしい。
聞いた話によると倒れていた中にはそれなりに強い精鋭の騎士も入っていたらしいから、それを無傷で気絶させられるトロエちゃんはすごいと思う(現場を見たわけじゃないから私が見に行ったときに無傷だっただけで回復させていたのかもしれないけど)。
おかげで周囲の護衛兼監視役の人員も変更され増強され、ついでとばかりに私の方にも護衛が増えた。
ただ、護衛を選ぶ側の国とかはものすごく不安を感じている気配はあるけどね。その数の増やし方でトロエちゃんを抑え込めるかどうかは分からないからね。
ただ、人が増えたと言えど今回の事は思った以上に良い方向に影響を与えている。
どうやらトロエちゃんはストレスをためると暴力に走ると言う風な認識をされたため、近づきたいと思う人が減ってしまったんだよね。カトラテちゃんの実家の人もそうだけど、さすがに利益があるからと言って優所正しい家の人達は暴力の危険に身をさらすことはしたくないみたい。
そして国もそうしたトロエちゃんの危険性を認識すると下手な相手と結婚させても結婚させた家が最悪の場合滅びかねないという事まで考えたみたいで、王子との婚約に許可を出すべきなのではないかと言う話すら出てきている。
やはり暴力。
暴力はすべてを解決する!
「私の婚約はあやふやな状態になりそうだね」
「そうですわねぇ。殿下との婚約が絶対にダメだとなるかは分かりませんし」
「でも、さすがに1人が2人の聖女をめとることは国も許さないんじゃないかしら?」
ここであやふやになるのが私の婚約相手。
当初はアニス(トロエちゃんと恋中の王子)と婚約するなんて言う話が持ち上がっていたけど、トロエちゃんの婚約で必ずしもそれが立ち消えるというわけではない。
聖女2人が同じ相手にと言うのは考えにくい事ではあるけど、絶対にありえないとも言えないから皆私の相手をどうするのかは迷うところだと思うんだよね。
アニスを隣国の国王にして自分たちの好きなように相手の国を操りたいっていう考えは今もあるだろうから。
そう言う意味では、私を送り込むというのも政治的に重要な手段の1つと言うわけ。
このまましばらくは私も婚約相手なんて物を気にせずに済む状態でいられるかなぁ、なんて思っていたんだけど、
「ただ、これはあくまでも噂ですけどどうやら魔王様がこちらの国にいらっしゃるようなんですの。さすがに聖女が2人と言うのは気になるようで」
「あら。魔王様が?」
「魔王様って重要な人なの?」
「魔王様は魔族のトップなのですから、協定がありますので人類と正面から衝突して争うという事はありませんが、魔王様は魔族の中でも戦闘力も1番高いとされている方ですので1人で都市の1つや2つ陥落させるのは余裕なのですわ。政治的にも戦略的にも重要な方なのです」
「ではもしかして、その人と私が婚約をなんていう話になる可能性も?」
「ないとは言い切れませんわね」
聖女の私が言うのもなんだけど、魔王なんていういかにもファンタジーな存在が出てきてしまった。
私も魔族とかの異種族にまではまだ知識が及んでいないからあまり詳しくはないけど、今のところ魔族と人間は争ってはいないらしい。
ただその魔族の力が強大なことは間違いないみたいで、皆その力を借りることができないかと狙っているみたい。
そして国としては、私と魔王が結婚すれば魔族の力を上手く使えるようになるかもしれないと企んでいるんだろうね。
そううまくはいかないと思うけど、確信できることがある。
「間違いなく何かあるだろうね」
絶対これ、トロエちゃんかカトラテちゃんたち関連のやつだぁぁ!!!
魔王なんて、主人公に絡まないわけがないもんね!?
私に悪影響が出る予感しかしないよぉぉ!!!




