16:暴力系ヒロイン(主人公)
私と王子の婚約話の真偽を確かめに来たトロエちゃん。
そんな彼女に私は全力で敵じゃないアピールをしておいたんだけど、こういう展開になるのなら情報は早めに渡しておいた方が良いだろうという事で、
「婚約で言えば、トロエさんも婚約を狙って殿方がお近づきになられていると聞いていますが」
「へ?そうなんですか?私と?」
「ええ。あなたもまた聖女となったようですし、国が取り込みに動いているようですよ。もうこの国から出て行かれないようにしたい、と言うわけですね」
「えぇ…………うそ、ですよね?」
トロエちゃんがものすごい表情をして固まる。
たぶん、今まで自分が政治的な諸々に絡むことになるなんて考えたこともなかったんじゃないかな?王子を背負って走るくらいだし、知らずに動いていると言う方がしっくりくる。
「アニス殿下にも尋ねてみた方が良いと思いますよ。私が聞いたのはあくまでも噂でしかありませんが、アニス殿下ならもっと詳しい事をご存知でしょう」
「わ、分かりました!聞いてみます!」
私の言葉を聞いて急いで駆け出していくトロエちゃん。向かう先は勿論王子のところ。
私もお友達から話は聞いているけど、それでも結局のところお友達にも立場っていうものがあるからすべての情報を渡してくれているとも思えない。
その点私よりも王子の方がこうした展開に離れているはずだし、情報の集め方なども理解しているはず。
私がそうしてトロエちゃんたちがこれからどうしていくのか思いを馳せていると、
「ヒトったら、そんなことをされては困りますわ」
「そう言いつつ、笑顔を浮かべてるのはなんでかな?」
「それは私にもお家の考えと言うものがあるからですわね」
私のこの行動は、予想をしていたのだろうお友達からはたしなめられたしかし、その顔には隠すことなく笑みを浮かべていて、一切不満を感じているように浜言えない。
それもそのはずで、家の立場と自分の考えと言うのは違うんだから。
皆家の立場で婚約をしていた状態から恋愛と言うものに最近発展したばかりだから、政略的な関係性の煩わしさと恋愛の良さと言うものを両方理解している。
だからこそ、個人的な感情で言えば皆計画通りの展開になるのは嫌なのだと思うね。
このまましばらく私は国に対するけん制を聖女っぽさを保ちつつなおかつ国から排除対象にされない程度に収めるようにしつつやって行かないといけないのかななんて思ってすでに疲れを感じていると、
「聖女様~!聞いてください!」
「トロエさん?どうかしましたか?」
「殿下がひどいんです!私は、国が決めた人と婚約したほうが幸せになれるって言って…………」
「なるほど」
はいはい。来ました。お決まりのやつ。
俺では君を幸せにできない。とか、君はあいつと一緒になって幸せになるべきだ、とか。
そう言うことをどっちかが言ってしまうパターンだね。相手の幸せを願うがゆえにってやつかな?お決まりのパターンすぎて正直放っておいていいかなって気になってる。
「幸せかどうかは自分が決めるものでしょう。トロエさんはどうしたいんですか?」
「私は…………」
放っておいてもいいとは考えたものの、さすがに本当に適当にあしらったらマズいからいい相談役みたいな立ち回りをしてみる。
基本的に相談役って相手の話を聞いておけばいいだけらしいし、今回も私はアドバイスと言うアドバイスはしない。気持ちが決まってるならそれを言わせるだけで解決となるはず。
実際、私が問いかけてみれば少しトロエちゃんは悩むような表情こそ浮かべたものの、
「私は、殿下と一緒に居たい!」
こう言ってくれた。
ここで全く知らない男の子の名前が出てきたら頭を抱えたけど、想定通りのルートをたどってくれて私としては大助かりだよ。
さすがの主人公力だね。
「では、それも含めて殿下に伝えてみてはいかがですか?人目につかないところで口にすることをおすすめはしますけど」
「なんでですか?」
「誰かに聞かれたら邪魔されるかもしれませんよ?国としては、そんなことはさせたくないんでしょうから」
「え?でも、国は私たちを支援してくれてますよ?」
「そうですね。しかし、国の存在意義を忘れてはいけません。基本的に国は、国民全体のためにあるのであって、数人の犠牲の範囲でなら多くの人間のために不幸をもたらすことだってあるんですよ?国が何のためにあるのかを忘れてはいけません。私たちはそうした国と折り合いをつけながらできるだけ多くの人を救える道を探していく必要があるわけです」
国は国民のためにあるのであって、たった1人の聖女や隣国の王子のためにあるわけではない。
こんなことをトロエちゃんに言うと私の聖女っぽさが薄れてしまうような気もする。一応最後に聖女らしさを常に発揮出来るよう探しているみたいなことは言っておいたけど、トロエちゃんが儂を見る目が変わってしまわないか心配だね。
だけど、今そこに関して払拭をしている時間はない。
国だって今も動いているわけだから、いつ誰の婚約が決まるかなんてわかったものではないわけだし。
私はトロエちゃんを王子のもとへと急がせ、
「せ、聖女様!!」
「はい?どうされました?」
「聖女様が…………トロエ様が殿下の顔を殴られて暴れております!できれば止めるためにお力添えのほどを!」
「それはいけませんね。すぐに向かいます」
聖女様っていうのが私だったりトロエちゃんだったりするから分かりにくいけど、どうやら報告によるとトロエちゃんが王子の顔を殴ったらしい。
しかもそれだけにとどまらず暴れてもいるとか。
何がどうなってそういう事態になったのかは分からないけど、
「この分からず屋~とか言いながら殴りかかる姿が目に浮かぶ」
情景は目に浮かんだ。
お互い本音をぶつけ合ういい機会になってくれたかな?
なんて思ったのもつかの間。
「トロエさん。何をやってるんですか」
「あっ、聖女様!?いや、これはその、やりたくはなかったけどやるしかなかったというか…………アハハッ」
「笑い事ではありませんよ。一体何人倒してしまわれたんですか」
私の前に広がる光景。
それは、トロエちゃんの周りに沢山の人が倒れ込んでいるというものだった。
その中には騎士なども含まれており、その鎧の腹部付近がひしゃげでいることから腹部に強烈な衝撃を与えたのだろうという事は分かる。
当然、その攻撃の主はトロエちゃん。
お得意の身体強化を使って全員沈めたんじゃないかな?噂によると、最近そうした身体強化をした状態で相手を気絶させることが上手くなったとか聞いたし。
何に使うのか、というかどうやって練習するのかすら謎だったけど、こうして現場を見てみればその報告は間違ってはなかったんだろうという事が理解できる。
「えぇっと。聖女様も殴らないとだめでしょうか?」
「怖い事を言わないでください。私もそこまで身体強化は得意ではないんですよ」
拳を振り上げようとするトロエちゃんを全力で止める。
急に恐ろしい事を言わないでほしいよね。今までさんざん味方としてやってきてたのに主人公側が裏切ってくるのでは駄目でしょうが。
と、思っていたら止めてくれる人が現れて、
「トロエ。やめろ」
「っ!殿下!」
「まさかお前がここまでやるとは思わなかった」
頬を赤くした王子が首を振りフラフラとではあるものの立ち上がり歩いて来る。
どうやら王子も顔面を殴られてそのまま気絶していたみたい。
気絶させるのは上手くても、それより弱くできるほどトロエちゃんは手加減が上手くはなかったんだね。殴るのを止められてよかった。




