15:嘘を嘘だと見抜ける人でないと
トロエちゃんの魔法が覚醒した。
身体強化だけでなく回復まで使えるようになり、それは正しく私に近づいてきていると言って間違いない。
それこそ、
「この世界での聖女様が誕生するとは!」
「これで我が国は安泰!」
「聖女様が2人か。世界が変わるな」
国内全体でトロエちゃんを聖女として認識する動きが広まっていた。
私ほどの魔法はまだ使えないけど、それでも普通の人よりは圧倒的に強い回復の魔法を使えるからそう認識するのもおかしなことではないと思う。
聖女とまで言える存在が2人もいれば、それはもう国としては安泰以外の何でもないよね。
それこそいくらでも病気やけがを治し放題になるんだから。
ただ、それが必ずしも私にとってメリットになるかと問われるとそんなことはない。
幾らこの国にとって良い事と言っても、私にしてみれば希少価値が下がるような結果になってしまうわけ。
今まで程私が大切な存在として扱ってもらえるかどうか怪しいという気持ちもある。
「私が聖女って言われても実感がわかないです」
「気持ちは分かります。私も召喚されたばかりの頃は聖女とは何かすらよく分かりませんでしたから。それこそ、魔法すら使えなかったですし」
「そうだったんですか!?」
一応トロエちゃんとは仲良くさせてもらってるけど、私の立ち位置にしてみれば最善の選択となるのはトロエちゃんを誰にもバレることなく始末してしまう事。今の時期ならば襲撃をされたばかりだし、いくらでも隣国のせいにできてしまうから関与もバレにくい。
そのうえ、始末できたのならば私がまた唯一の聖女に戻れるから自分の立場を危ぶむ必要もなくなる。
けど、当然ながらそんなことはしないよ?
どう考えてもやることが悪役過ぎるからね。主人公属性満載なトロエちゃんにそんなことをやっても無駄どころか自分の首を絞めるだけなんていうことはよく分かっているんだよ。
ただ、正直なことを言えば私がいっさい敵側にならないで済んでいるかと問われるとそんなことはなく、
「私とアニス殿下の婚約を推す声がさらに大きくなってきている、か」
「ええ。そうなのですわ。頭の痛い話ですけど、それも仕方のない状況と申しますか」
「最悪1人いなくなってもいいなんてことも考えられるようになったら、余計にそこの利益は狙いたくなるよね。国側の気持ちも分かるよ」
私と王子の婚約話が余計に大きくなってきてしまっている。
私の希少価値が薄れたからこそ、誰かの婚約者としてしまうことによる痛みが減ったわけだね。お友達たちも国の利益を優先しなければいけない以上私に関する事柄に私情もはさめず、苦々しい顔をしている。
ここで気になるのはどうして王子の婚約者がトロエちゃんにならないのか、といったところかもしれない。
私と同じ聖女だし、それこそ隣国出身で妃になっても国内での反発はあまり起きにくそう。私ではなくそちらを推す声が上がってもおかしくないかとも思えるよね。
でも、残念ながらそうはならない。
「トロエちゃんの方もいろんなお家から婚約の打診が?」
「ええ。全力で取り込みに行くつもりのようですわ。我が家からも弟が数人送り込まれておりますし」
「それでトロエちゃんがこの国に反感を抱かないでくれると良いんだけど」
「…………ですわね」
すこしの溜があってからの同意。
その沈黙の中には、お前が言うなと言うような含みがあったような気もする。
実際、私の立場になって考えてみればこの国に対して思うところなんていくらでもありそうなものだからね。
勝手に他の世界から呼び出して(誘拐して)聖女なんて言う役職で働かせて、特に貴重でなくなったら政治の道具にして最悪消えてしまっても問題ないくらいの扱いをされそうになっているわけだし。
カトラテちゃんたちの視点から考えても、私に対する国の対応と言うのは私がこの国に好印象を抱けないようなものになってきてしまっているんだと思う。
「下手をすれば聖女2人ともがこの国から出ていきそうだという事を理解しているのでしょうか?」
「さぁ?どうなんだろうね?これくらいならまだ私もこの国から出ようと思うほどではないし、これからの動きを見てみるしかないんじゃない?」
カトラテちゃんも国に対して思うところがありそうに言うけど、こんな話を私にするくらいだからすでに何か手は打ってあるんだと思う。
それが国の意見を変えるというモノならいいんだけど、私やトロエちゃんが脱走したりしようとしても逃げさせないようにするための物、とかだったら嫌だなぁ。
ただ、こうして話が盛り上がっているにしてもまだ婚約云々の話は正式に決定したわけではない。
予定は未定で話がこじれたり変更されたりと言う可能性は十二分にある。
けど、どうやらそうした噂と言うのは注意しておかないとまるで真実のように聞こえるみたいで、
「聖女様!殿下と結婚するって本当ですか!?」
ある日、私のもとにトロエちゃんが突撃してきた。
どうやら噂を聞いて信じてしまったみたい。
表情は驚きが多分に含まれているけど、それに加えて焦りなど複雑なモノも見え隠れしている。
王子が結婚するのは嫌だけど、相手が私だから何とも言えないと言ったところかな。
不安は理解できるため、私はできるだけ困ったような表情をしつつ悪役のポジションになりそうな言葉は避けながら、
「いえ。そんなことは決定してませんよ。そうした話が出てきていることは事実ですが、まだ未定です」
「そ、そうなんですか。話を聞いて急いで確かめなきゃって思ったんですけど」
「そうなのですか?トロエさんは殿下の婚約事情が気になるんですね」
「あっ、いえ、あの、そういうことでは…………」
「別に否定しなくてもいいではないですか。まだ気持ちが固まっていないという事なのかもしれませんけど、わざわざ自分の気持ちに嘘をつく必要もないと思いますよ?」
焦っていたからなのかボロが出た。
良い機会なので全力で応援しておく。これで、もし本当に私と王子の婚約が決まってしまったとしても私の本意ではないという事は伝わるはず!
「私もそれが国のため、そして大勢の人のためと言われるとなかなか断りにくいですが、やはりお相手は私の事を愛してくださる方がいいですからね。他の方に想いを寄せられていると少し夫婦としてやっていくには困りますし」
「ほ、他の人?えっと、それは殿下が他の人に?」
「さぁ?どうでしょう?しかし、私はその可能性が高いと考えていますよ」
「そ、そうなんですか」
「もしかしたら、その相手はトロエさんかもしれませんよ」
「っ!?い、いやいやいや!そんなはずないじゃないですか!?だって殿下ですよ!?私なんかよりもっときれいでかわいい人をいっぱい見てきているはずです!それこそ聖女様とか!」
「ふふっ。褒めてもらえるのはうれしいですけど、トロエさんも可愛らしいのですから卑下されるのは良くないですよ。人によっては嫌味に感じられてしまうこともありますから」
「そ、それは…………ありがとう、ございます」
照れた様子のトロエちゃん。
そんな彼女がすぐに大きなことをしでかすなんて、私は思ってもいなかった。




