表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学年トップの俺を捨てた元カノが、追試で留年の危機らしい。俺は不登校だった美少女の家庭教師を頼まれて忙しいので、復縁は不可能です。  作者: こうと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/38

第38話 化学準備室の主はひとり微笑む

 放課後の化学準備室。

 ここには、古い実験器具の匂いと、私の淹れたコーヒーの香りが混じり合っている。

 私は愛用のマグカップを片手に、窓の外を眺めていた。


 茜色に染まる校庭を、生徒たちが三々五々と帰っていく。

 その中に、一際目立つ二人組の姿があった。


 柏木湊と、如月ことね。

 手を繋ぎ、何やら楽しげに笑い合いながら歩いている。その周りだけ、まるでピンク色のフィルターがかかっているかのようだ。


「……まったく。学校はデートスポットじゃないんだがな」


 私は呆れたように呟きつつ、口元の緩みを隠すためにコーヒーを啜った。


 数ヶ月前。

 柏木は「勉強しか取り柄がない」と振られ、死んだ魚のような目をしていた。

 如月は「見掛け倒し」と笑われるのを恐れ、自分の殻に閉じこもっていた。


 二つの不安定な元素。

 混ぜ合わせれば、劇薬になるか、それとも――。

 私が柏木にプリントを託したのは、そんな教師としての好奇心と、少しばかりのお節介だった。


 結果はどうだ。

 劇薬どころか、互いに欠けた電子を補い合い、とてつもなく強固で安定した「共有結合」を結んでしまったらしい。

 不登校だった少女は学年2位の秀才となり、ガリ勉と揶揄された少年は彼女を支える頼もしい男になった。


「人間同士の化学反応ってやつは、計算通りにいかないから面白い」


 私は視線を少しずらした。

 二人の後ろを、別の二人組が歩いている。

 黒髪のボブカットになった愛川リナと、眼鏡の橘結衣だ。


 愛川の変化もまた、予想外の反応だった。

 一度は澱のように底に沈殿した彼女が、自らの熱で再結晶し、輝きを取り戻すとは。

 268位から48位へのジャンプアップ。

 あの時、私がかけた「悲劇にしかならんぞ」という言葉への、彼女なりの痛快な回答だ。


「……優秀な生徒を持つと、教師は退屈する暇がないな」


 私は白衣のポケットから、いつもの棒付きキャンディを取り出した。

 包装紙を剥き、口に放り込む。

 甘い味が広がる。


 彼らの青春は、まだ実験途中だ。

 これから先、また爆発したり、白濁したり、分離したりすることもあるだろう。

 だが、今の彼らなら大丈夫だ。

 失敗しても、また試薬を足して、新しい答えを見つけ出せる強さを持っている。


「さて、と」


 私は空になったマグカップを置き、伸びをした。

 明日もまた、騒がしい一日が始まる。

 あのバカップルがいちゃつくのを適度に注意し、元ギャルの更生を見守り、悩み多き若者たちの触媒となってやるのが、私の仕事だ。


「精々悩んで、苦しんで、幸せになりなさい。……私の可愛い生徒たち」


 私は夕陽に向かって、誰にも聞こえない声で小さく呟いた。

 化学準備室の魔女は、今日もビーカーの底で、静かに微笑んでいる。

これにて完結です!

ここまで読んで下さり、そして応援して下さりありがとうございました!!

他の作品にてお会いできることを楽しみにしております!


もし宜しければ作者の連載中の作品『ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女だった』もご覧ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
リナのポジションの子が過ちを認めて前向きに奮起する作品はそんなに無いので 少し意外でしたが 雑にざまあされて退場するよりもこういう「なにくそ」って感じで頑張るのは 血の通った人間らしさがあって良かった…
もっと読んでいたかったけど、このくらいの長さでも満足感はありました。 また好きな作品でお会いしたいです。
完結お疲れ様でした! 楽しく読ませていただきました! 湊とことねは、とても良いカップルになりましたね そしてリナが更正して復活したのも良かったです 良い話をありがとうございました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ