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学年トップの俺を捨てた元カノが、追試で留年の危機らしい。俺は不登校だった美少女の家庭教師を頼まれて忙しいので、復縁は不可能です。  作者: こうと


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第28話 祝福の花火

河川敷の土手は、祭りの喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 遠くから聞こえる太鼓の音と、草むらの虫の声だけが響いている。


「……ここなら、よく見えそうだ」

「うん。風も涼しいし、特等席だね」


 俺と如月は、川面が見渡せる場所に並んで腰を下ろした。

 如月は大切そうに黒猫のぬいぐるみを膝に乗せ、その横顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。

 浴衣の袖が触れ合う距離。

 花火が打ち上がるまでの、心地よい静寂。


 ――ガサガサッ!


 不意に、背後の草むらから荒い足音が聞こえた。

 俺たちが振り返ると同時に、その影は現れた。


「……はぁ、はぁ……やっと、見つけた……!」


 愛川リナだった。

 肩で息をしている。

 着慣れない浴衣は裾が乱れ、髪も少しほつれている。汗で化粧が滲み、鬼気迫る形相だ。


「愛川……? なんでここに」

「なんでって……あんたを探してたに決まってるでしょ!」


 リナは芝生を踏みしめ、俺たちの目の前に立ち塞がった。

 そして、俺の隣に座る如月を睨みつけると、悲痛な声を上げた。


「どいてよ。……そこは、私の席なんだから!」

「……お前の席なんて、もうどこにもないぞ」


 俺は冷静に返し、立ち上がって如月を庇うように前に出た。

ほんとにこいつは何を言っているんだ。


「付き纏うのはやめろ。俺たちの関係は前に終わったんだ」

「終わってない! 私が一方的に言っただけじゃん! 取り消すよ、あんな言葉!」


 リナは必死に首を振り、俺の浴衣の袖に縋り付こうとしてきた。


「私、わかったの。長谷川くんみたいなバカじゃダメだって。……私には、柏木くんみたいな賢い人が必要なの」

「……それ、俺の『機能』が必要なだけだろ」

「違う! 好きだからよ! 春に付き合い始めた時、楽しかったでしょ!? ゲーセンでUFOキャッチャー教えてくれたり、テスト前にファミレスで勉強したり……あの頃に戻ろうよ!」


 リナの目から涙が溢れ出す。

 確かに、付き合い始めの頃は楽しかったかもしれない。

 だが、その記憶すらも、今の彼女の言動で色褪せていく。彼女が懐かしんでいるのは「俺」ではなく、「俺に尽くされていた自分」だ。


「戻れないよ、リナ」


 俺は彼女の手を振り払うことなく、ただ静かに一歩下がって距離を取った。


「俺は、お前といるともっと楽しいことが増えていくかと思って、尽くしてきたつもりだった。でも、お前はずっと俺を『便利な道具』としてしか見ていなかった」

「だ、だから! 変わるって言ってるじゃん! 反省したから! 私だって、やればできる子だし!」

「……口先だけなら何とでも言える」


 俺の冷たい視線に、リナが息を呑む。


「お前は『変わる』と言いながら、結局今も俺に頼ろうとしているだけだ。自分で歩こうとしていない」


 そう告げると、リナは言葉に詰まり、視線を彷徨わせた。

 そして、その視線が俺の後ろ――如月に向いた瞬間、憎悪の色が宿った。


「……なによ。じゃあ、その子は? その子だって、あんたに勉強教えてもらってるだけじゃん! 私と同じ『寄生虫』でしょ!?」


 リナが如月を指差して叫ぶ。

 俺が怒りで反論しようとした、その時だった。


 スッ、と。

 如月が静かに立ち上がった。

 彼女は俺の後ろに隠れるのではなく、俺の隣に並んだ。

 その表情に、怯えも怒りもない。ただ、凛とした静寂だけがあった。


「……私は、先生に依存してる。それは否定しません」


 如月は淡々と言った。


「でも、私は先生に『答え』だけを求めたりしない、先生が教えてくれた道筋を、自分の足で歩きたいから。……先生が誇れる生徒でありたいから」


 彼女は膝に乗せていたぬいぐるみを抱きしめ直し、リナを真っ直ぐに見据えた。


「貴方は、先生を見ていなかった。先生の『ノート』しか見ていなかった」

「っ……」

「でも、私は先生を見てる。先生の手も、声も、心も……全部、私が見つけた」


 圧倒的な「格」の違い。

 泣き喚くリナと、静かに想いを告げる如月。

 どちらが俺にとって大切な存在か、比べるまでもなかった。


「……そういうことだ、リナ」


 俺は如月の肩に手を置き、リナにはっきりと告げた。


「俺が隣にいてほしいのは、過去の思い出にすがるお前じゃない。……今、俺を見て、俺と一緒に歩いてくれる如月だ」


 決定的な拒絶。

 リナの顔色が土気色に変わる。

 涙も止まり、ただ呆然と口を開けていた。

 自分のシナリオが、都合のいい妄想が、粉々に砕け散ったことを悟ったのだ。


「う……うぅ……っ!」


 リナは耐えきれないように顔を歪めると、脱兎のごとくその場から逃げ出した。

 「あんたなんか……知らないっ!」という捨て台詞を残して、闇の中へと消えていく。

 それが、元カノとの正真正銘の今生の別れだった。


 ――ヒュゥゥゥ……。


 リナの足音が遠ざかった直後。

 夜空気を切り裂く音が響いた。


 ドォォォン!!


 頭上で大輪の花火が弾けた。

 極彩色の光が、静寂を取り戻した河川敷を鮮やかに照らし出す。

 俺と如月、二人だけの世界を祝福するように。

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「今生の」って、同級生なんだから、夏休みが終わったらクラスで会うでしょ。 それとも転校でもするの?
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