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学年トップの俺を捨てた元カノが、追試で留年の危機らしい。俺は不登校だった美少女の家庭教師を頼まれて忙しいので、復縁は不可能です。  作者: こうと


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第19話 元カノカップルが現れた!

「――やっぱり! 奇遇だねー! こんなところで会うなんて!」


 書店の静寂を切り裂く、場違いに甲高い声。

 俺の背筋が一瞬で凍りついた。

 振り返りたくない。だが、逃げるわけにもいかない。


 そこに立っていたのは、派手なメイクにミニスカート姿の愛川リナと、その後ろで気怠そうに荷物を持たされているサッカー部の長谷川だった。


「……愛川か。奇遇だな」


 俺は努めて冷静に、事務的なトーンで返した。

 リナの顔には、貼り付けたような笑顔が浮かんでいるが、その目は笑っていない。俺の腕に密着している如月ことねを見て、ピクリと眉を引き攣らせている。


「何してるの? デート?」

「参考書の買い出しだ。二学期の予習用にな」

「ふーん。相変わらず勉強熱心だねー。夏休みくらい遊べばいいのに」


 リナは鼻で笑い、チラリと俺の隣の如月を見た。

 その視線には、隠しきれない敵意と、焦りが混じっている。


「……こんにちは、如月さん。随分と気合入った服着てるじゃん。参考書買うだけなのに?」

「……こんにちは」


 如月は短く挨拶しただけで、俺の背中に隠れるように身を引いた。

 だが、俺の腕を掴む力は万力のように強い。

 怯えているのではない。「私の先生に近づくな」という威嚇だ。


 その時、後ろにいた長谷川が、気のない様子で口を開いた。


「おいリナ、誰だよ知り合いか? 早く行こうぜ、腹減ったんだけど」

「ちょっと待ってよ長谷川くん! ほら、元カレの柏木だよ。あと、例の不登校だった如月さん」


 リナが紹介すると、長谷川の視線が俺たちに向けられた。

 最初は興味なさげだった彼の目が、如月の姿を捉えた瞬間、カッと見開かれた。


「は……?」


 長谷川の視線が、如月の顔から足先までを舐めるように往復する。

 淡い水色のワンピース。透き通るような白い肌。可憐で清楚な立ち振る舞い。

 今日の如月は、誰が見ても「高嶺の花」だ。派手で露出の多いリナとは、美しさのベクトルも質も違っていた。


「おい、マジかよ……これがあの引きこもり?」

「ちょ、長谷川くん?」

「すっげー美人じゃん。芸能人かと思ったわ」


 長谷川の口から、無遠慮な賛辞が漏れる。

 リナの顔色がサッと変わった。彼氏が目の前で、自分が敵視している女に見惚れているのだ。これ以上の屈辱はないだろう。


「な、何言ってんのよ! ただ服で着飾ってるだけだって!」

「いやいや、素材が違うだろこれ。……おい柏木、お前こんな上玉隠してたのかよ。やるなぁ」


 長谷川はニヤニヤしながら、一歩前に出てきた。

 俺のことを「ガリ勉」と見下していた態度が一変、男としての興味を隠そうともしない。


「ねえ、如月ちゃんだったっけ? 俺、サッカー部の長谷川。知ってる?」

「…………」

「柏木みたいな真面目くんといてもつまんなくない? 参考書買うよりさ、俺らとカラオケ行かね? リナもいるし安心っしょ」


 軽薄なナンパだ。

 俺の隣にいるリナの存在などお構いなし。リナは「はぁ!? 何誘ってんのよ!」と金切り声を上げているが、長谷川は無視している。

 俺たちカップル(?)と、彼らカップル。

 その関係性の「格差」が、あまりにも残酷な形で浮き彫りになっていた。


 俺は一歩前に出て、如月を背に庇った。


「悪いが、如月は俺との『授業』で忙しいんだ。お前らの遊びに付き合ってる暇はない」

「あ? なんだよケチくせーな。減るもんじゃねーだろ」

「時間は減る。特に受験生前の夏休みは貴重だ。……行くぞ、如月」


 俺は会話を打ち切り、その場を離れようとした。

 これ以上ここにいても、不愉快なだけだ。


 だが、リナが俺の行く手を阻むように回り込んできた。


「待ってよ柏木!」


 リナは長谷川の態度に傷ついたプライドを取り戻そうとするかのように、俺の袖を掴もうとした。


「あんたさ、私のこと忘れてない? 私、今回のテストでヤバかったんだよ? 補習もあるし!」

「……知ってるよ。268位だろ」

「うっ……そ、そうだけど! だからさ、あんた責任取りなさいよ!」

「責任?」

「そうよ! あんたがいきなり振るから、調子狂っちゃったんじゃない! だから、夏休みの補習の課題、手伝ってよ。元カノへの罪滅ぼしとして!」


 あまりにも身勝手な論理に、俺は呆れて言葉も出なかった。しかもお前が振ったんだろ?

 長谷川に相手にされず、勉強もできず、追い詰められた結果がこれか。

 以前の俺なら「しょうがないな」と苦笑していたかもしれない。

 だが今は、ただただ「哀れ」にしか見えなかった。


「断る」


 俺は即答した。


「俺は今、如月の専属家庭教師だ。他の生徒を見る余裕はない」

「なっ……! ちょっとくらいいいじゃん!ちょっと前まではあんなに尽くしてくれたのに!」

「それはお前が俺の彼女だったからだ。今はただのクラスメイトだろ」

「っ……!」


 リナが言葉を詰まらせる。

 その目には涙が溜まっていた。悔しさか、惨めさか。

 それでも食い下がろうとするリナの前に――スッ、と白い腕が差し込まれた。


 如月だ。

 彼女は俺とリナの間に割り込み、俺の体を守るように立ちはだかった。

 その表情は、先ほど俺に見せていた甘い笑顔とは別物だった。

 絶対零度の、氷の微笑。


「……聞こえませんでしたか? 先生は『忙しい』って」


 鈴を転がすような声だが、そこには刃物が混じっていた。


「先生の時間は、一秒たりとも無駄にはできないんです。貴方の怠惰な補習に付き合っている暇なんてありません」

「な、何よ部外者が……!」

「部外者はそっちです」


 如月は一歩も引かなかった。

 その瞳が、リナを射抜く。


「先生は、私を選んでくれたんです。貴方が捨てた先生の価値を、私は誰よりも知っている。……今更惜しくなっても、もう遅いんですよ」

「っ……」

「行こう、先生。……ここ、空気が悪いから」


 如月はリナを完全に黙らせると、俺の方を振り向き、いつものとろけるような笑顔に戻った。


「早く参考書買いましょ? 私、もっと賢くなりたいの」


 その切り替えの早さに、俺は少しだけ戦慄した。

 だが、彼女が俺のために怒ってくれたことは素直に嬉しかった。


「……ああ、そうだな。行こう」


 俺たちは呆然とするリナと、ニヤニヤと眺めている長谷川を残して、参考書コーナーの奥へと歩き出した。

 背後から「ちょっと! 無視しないでよ!」「うっせーなリナ、もう行こうぜ。しらけたわ」という言い争う声が聞こえてきたが、俺たちは一度も振り返らなかった。





 ***





 書店の外に出ると、真夏の太陽が容赦なく降り注いでいた。

 だが、店内で感じた嫌な空気は消え去り、清々しい気分だった。


「……ごめんな、如月。せっかくの買い出しなのに、嫌な思いさせた」

「ううん。むしろスッキリしたかも」


 如月は麦わら帽子の縁を押さえながら、悪戯っぽく笑った。


「だって、先生がハッキリ断ってくれたし。……あっちの彼氏さん、私のことチラチラ見てたけど、先生はずっと私だけを見ててくれたし」


 彼女は俺の腕に頬をすり寄せた。


「先生。私、勝ったんだね」

「勝ち負けじゃないけどな……まあ、お前の方が100倍優秀な生徒だよ」

「ふふ、生徒としてだけ?」


 意味深な問いかけに、俺が答えに窮していると、彼女はクスクスと笑って誤魔化した。


「さて! 邪魔者もいなくなったし、あっちのカフェで休憩しよ? 先生、パフェ奢って?」

「……参考書代で財布が軽くなったんだが」

「えー、ケチー。じゃあ半分こしよ? 『あーん』してあげる」

「却下だ。普通に二つ頼む」


 俺たちは軽口を叩き合いながら、駅前のカフェへと向かった。

 繋いだ手は汗ばんでいたが、離そうとは思わなかった。


 リナたちとの遭遇は、不愉快なハプニングではあったが、結果として俺たちの結束を――そして、俺が「誰を大切にすべきか」を、より強固なものにしてくれた気がする。


 この夏休みは、きっと熱くなる。

 俺は隣を歩く美少女の横顔を見ながら、そんな予感に胸を高鳴らせていた。

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― 新着の感想 ―
なんか長谷川がちょっかいだしてくることが決定したみたいで嫌だな。
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